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寝室についてドアを閉めて直ぐに、後ろから抱きしめる強い腕を感じて足を止めた。首筋に触れる堅めの髪が少しチクチクするが、拒むものではない。撫でてやると、犬みたいな声で鳴いた。
「すいません、俺……なんか今日、収まりつかないような気がします」
「そうだな」
しっかり尻に当たっている。そうとうガチガチだ。
だからといって拒むものでもない。ある程度望んでここにきているのだ。あのまま実家にいたらそれこそキスだけの生殺しを延々と味わう事になるだろうから、ここに誘ったのだ。
「いいんじゃないか。むしろ恋人と言うなら正しい反応だろう」
「痛かったら、ごめんなさい」
「……まぁ、ゆっくりしてくれ」
痛いのは正直嫌だが、加減されるのも嫌だ。溜息をつき、キアランは荷物の中から香油を出して枕の横に置いた。
ギシリと音がして、キアランの上にトレヴァーが陣取る。そしてもう一度、キスからやり直してくれる。こういう部分はとても律儀な奴だ。
舌が口腔をなぞり、ジワジワと疼かせていく。だがずっととろ火だ。これでは足りないんだ。
「トレヴァー、まどろっこしいのはいい」
「え?」
「ちゃんと触ってくれ。もう、何日していないと思う。お前が倒れるまで仕事したから、俺はずっとお預けだ」
恨み言の一つくらいは出るだろう。なにせキアランとしては安息日前日の度に誘っていたつもりだ。床を一緒にしたり、誘うような事を言ってみたり。なのにトレヴァーはまったく聞こえていないのか、その気力もないのか直ぐに寝てしまう。おかげでずっとモヤモヤだ。
申し訳ない顔をするトレヴァーを睨み付けたキアランが、ボタンを自ら外していく。それを見たトレヴァーは慌てて止めて、ボタンを外し始めた。
「俺のなけなしの勇気と誘いを断った代償は大きいぞ」
「すみません」
「悪いと思うなら存分に俺を満足させろ。いいな」
「でも、明日とか辛いと思いますよ?」
「明日はお前が俺の世話をすればいいだろ。それ込みだ」
だから頼む、手加減などしてくれるな。お前がしたいようにしてくれ。今だけは優しさなどいらないから。
トレヴァーは困りながらも頷いて、ボタンを全部外して前を開ける。そして薄っぺらい体を指でツツ……ッと撫でた。
「っ」
「綺麗な肌ですよね。肌理が細かくて、日焼けもしていなくて」
「なまっちょろくて薄くて、とても騎士とは思えない体だが?」
多少は気にしている。鍛えはし始めた。なにせ若い恋人は体力も精力も有り余っている。受け止めたいという気持ちはあるのだから、無理のない程度には体力をつけ始めた。おかげで少しはまともになったのだ。
だがそんなものも、目の前の恋人の体に比べればもやしだ。トレヴァーのチュニックを脱がせれば、目の前には見事な筋肉を纏う体がある。盛り上がった上腕に、厚い胸板、割れた腹筋。母と妹が興奮するのも頷けるものだ。
「お前のようには、どうしてもなれないな」
「俺は俺、キアはキアでいいと思う。それに俺、キアの体好きだよ。こうして吸うと……」
言いながら、トレヴァーがチュッと首筋を吸う。ピクリと反応してしまうが、痛かったりはしない。
「ほら、直ぐに跡がついた。肌が白いから、こういうのが目立ってエロい」
「な! お前な!」
「それに乳首も色が綺麗だし、触り心地いいし、俺からしたら最高だよ」
手が肌の上を撫でて、やわやわと乳首を摘まんだり揉んだりする。薄っぺらいそこはまだ自己主張などしていないが、ムズムズしてしまう。分かっている、これが徐々に変化していくのなんて。
これ以上見ているのはいたたまれない。もとい、恥ずかしい。眼鏡を外せば多少見えなくなると手をかけたが、その手を何故かトレヴァーが止めて、指先にキスをする。もうこんな事にすら、ちょっとゾクッとしてしまう。
「今日はつけたままでいてください」
「な!」
「見ていてください。お願いします」
羞恥で頭がパンクしそうだ。だが……しおらしくお願いされれば仕方が無い。
「わか、た」
「有難うございます」
すわっと、艶っぽく濡れた瞳で笑ったトレヴァーが、そっと体を下へとずらしていく。そして優しく、胸元に唇を寄せた。
「っ」
濡れた舌が敏感になり始めた乳首を柔らかく舐め、吸い付いてくる。もう片方は指が、やはり優しい力加減で触れてくる。ジワジワと気持ち良くなって、微熱でも出したようにクラクラし始めた。
「ほら、ここ。とても綺麗ですよ」
「っ!」
唇が離れ、唾液に濡れた乳首が照り光って見える。赤みを増してぷっくりと大きくなったそこの淫靡さは、視覚的に暴力レベルで恥ずかしい。思わず手で顔を隠すが、その手は優しく取り払われ、キスのおまけまでついた。
「恥ずかしいの、気持ちいいですよね?」
「そんなこと!」
「でも、ほら」
知らしめるように片手が下半身へと伸びて、僅かに硬くなり始めた部分を撫でる。まだ完全ではないが芯を持ち始めた部分から、とろりと透明な液が零れた。
「っ!!」
「俺は嬉しいですよ。キアの気持ちいい顔、とても可愛いと思うから」
「俺はお前よりも年上だぞ!」
「年上でも、俺にとってキアは可愛いです。こういう時は」
年上としての威厳はどこへ行ってしまったのか。だが、こういう時はそれでもいいと思えてしまう自分もいて、実に複雑だ。もう少し酒を飲んでおけば踏ん切りがついたのに。
立ち上がった乳首を舌で転がされ、指で遊ばれて。ジンジンと痺れるように気持ち良くなる頃にはキアランの頭も痺れてきた。明らかに理性よりも欲望に従い始め、それを恥ずかしいとは思えなくなってきている。
「腰、動いてますね。気持ちいいですか?」
「う、るさい……っっ」
気持ちいい。蕩けてしまいそうだ。さっさと衣服全部を脱がされ、トレヴァーも上半身は裸。その逞しい腹筋に敏感な先端が擦れて、ヌルヌルにしてしまっている。
「トレヴァー、お前も脱げ」
下半身はまだ脱いでいないが、それでもしっかり反応しているのは分かっている。
言われて、一度離れたトレヴァーが全部を脱ぎ捨てるとかなり大変な事になっていた。それを見た途端に、少し怖じ気づいて萎えた自分がいる。
「あっ、萎えないでくださいよ!」
「おま! それを俺に挿れるつもりか! 裂ける! 痛い!」
「俺も抜いてないからしかたないじゃないですか!」
だって、ない。カサが大きく張って、根元も太くて、長くて……こんなの挿れられたらきっと切れてしまう。
「無理!」
「もう、仕方が無いですね。それじゃ、一度出します」
困り果てた顔をしながら、とんでもない事をトレヴァーは言った。「はて?」と言葉を理解するよりも前にベッドに腰を下ろしたトレヴァーが、自身の逸物を握りこむ。そしてゆっくりとその手を上下し始めたのに、キアランは驚いて飛び上がった。
「っ……ふぅ……」
「っ……」
思わず見入ったまま動けなくなってしまった。恋人が目の前で自慰をしているという異常事態なのに、悩ましげに寄る眉や、上下される手の動きや、ヌラヌラと先走りで濡れる逸物とか。そういうものがとても淫靡で、目が離せなくなっている。
「そんな、見ないでくださいよ。これでも恥ずかしいんです」
「いや、だが……」
無理だ、見てしまう。そして、興奮してしまう。
互いに身に纏うものがない。キアランからトレヴァーの裸が見えるように、トレヴァーからもキアランの興奮が見える。赤い顔で下半身を凝視したトレヴァーが、そろそろと手を伸ばして先端に触れた。
「んぅぅ!」
「キアも、興奮してる」
「はぁ……あぅっ」
先端の辺りを手の平でクリクリと撫でられて興奮する。ヌチヌチと嫌らしい音がして、恥ずかしいのに興奮する。
「キア、こっち。俺の膝の上に乗って」
首を傾げながらも言われた通りに背を向けて座ったが、「違う」と言われて向かい合わせの状態で座った。そうすると互いの興奮しきったものが触れあう距離に来る。
トレヴァーはそれが目的だったのだろう。二人分の逸物を大きな手で包み込むとリズムをつけて上下し始めた。
腰が抜けてしまいそう。気持ち良くて頭の中が蕩けていく。トレヴァーの肩に額を置いて体を支えているが、そうなると思い切り局部が見えてしまう。手と、トレヴァーのものとが触れて擦れてグズグズに零れている自分のものを眼下にして、知らず後孔がキュッと切なげに反応した。
「キアも、一緒に」
「え? あっ!」
ブラブラしている片手を取られ、トレヴァーの手と重なって、その状態で二人で扱く。手でも、目でも、感覚でも犯されてこみ上げるものを我慢できなかった。ぐずぐずに蕩けた頭ではもう、抑制なんてきかない。「イク」と何度も繰り返し、ギュッと抱きついた状態でキアランは陥落した。
追いかけるようにトレヴァーもたっぷりと吐き出して、室内は二人分の荒い息だけが聞こえる。
イッた余韻に浸るキアランを、トレヴァーは丁寧にベッドに寝かせる。そして手に香油を取り、ヒクヒクしている後孔へと差し込んでいった。
「ひっ! あっ、やめ…………あぁぁ!」
「凄く、締め付けてる。それに吸い付くようで、気持ち良さそう」
そんな実況など求めていない!
頭の中がバカになったままだが、イッた衝撃で少しだが思考力が戻ってくる。ただ、何かのスイッチは入っただろう。素直に快楽を受け入れる状態になっている。
「やっぱり、一度イクと少し解れる。痛くないですか?」
「ないっ」
痛くないから早く挿れてくれ! 腹の奥がずっとウズウズしてたまらない!
一年前までは知らなかった快楽が押し寄せてくる。明らかに普通の男が感じない部分で快楽を貪るようになっている。今疼いているここを突かれたら…………想像だけでまた物欲しげに後ろが締まった。
香油でヌラヌラと照り光るそこに、トレヴァーの熱い楔が触れる。少しずつ力を入れて割りいるそれを、最初こそ痛いと感じていた。だが、内壁を擦る熱く太いものが与える快楽で塗り替えられて、それもいつしか忘れてしまった。
「はっ、あっ、あぁ!」
「食べられそう……キア、もう少し緩めて」
そんな器用な事できるか!
ふるふると涙の浮いた目を向け首を横に振ったキアランに、トレヴァーは辛そうに眉根を寄せる。
膝裏を持ち上げられ、本当に杭でも打ち込むのかという強い力で奥を抉られ、キアランの意識は一瞬飛んだ。快楽が深くてちょっと気持ち悪い。でも、癖になる。
激しく深い交わりにおかしくなりそう……いや、多分もうおかしい。さっきから口をついて出るのは「気持ちいい」「もっと」「イクぅ」という甘えた声ばかりで、他は言葉にならない喘ぎだ。
「キア、ずっとイッてますよね?」
「イッる! 止まらな……っあぁ! またイク! もう無理!」
出してないのにイキッぱなしでおかしくなりそうだ。頭の奥まで痺れて途切れそう。
「もう少し……っ! 俺も、イっ……んぅ!」
「んあぁ! はっ、あぁ!!」
腹を突き破られるんじゃないかと怖くなるくらい逞しい腰つきで攻め立てられて、キアランは二度目を放った。中でトレヴァーが脈打ちながら果てたのを感じる。それが染みてまた、じゅくじゅくと疼いている。
「キア」
気持ちよさに濡れた瞳。触れた唇と、熱い息。グチャグチャに混ざり合うようなキスが気持ち良くて好きだ。互いの愛情を混ぜ合うようで、興奮…………。
「…………おい」
「すみません」
たっぷりと吐き出して力をなくしかけたものが、また中で育つ。ジロリと睨むと、トレヴァーはもの凄く顔を赤くして項垂れた。
「あの、後は自分で!」
「そこに仰向けに寝ろ!」
急いで抜き去ったトレヴァーが逃げようとするのを、キアランは止めた。ビクッとしたトレヴァーを睨み付けると、彼は渋々と言うことを聞いた。
「あの、流石に抜かないと俺、収まりつかないんで」
「お前、俺はお前のなんだ」
「恋人、です」
「目の前に恋人がいるのに、お前は一人でこそこそ抜くのか」
「いえ、だって」
「だってもクソもあるか!」
正直腰が重いし、激しく突かれた奥がジンジンしているし、頭の中もいい具合にぶっ飛んでいる。だがこんな事、ぶっ飛んでいる時しかする勇気がないだろう。
キアランはトレヴァーを跨ぐ。そして堂々と勃っている逸物の上に自らの後孔を宛がうと、そのまま腰を落としていった。
「キア!」
「っ!!」
ゾクゾクと背中を快楽が走る。内壁を擦るこの感覚はいつでも気持ちいい。一緒に前立腺も押しつぶされていく。
既に激しく攻め立てられた部分だ、慣らしなどいらない。しかもトレヴァーが出したものが潤滑油になって滑らかに根元まで入っていく。完全に腰を落とすといつも以上に沈み込んで、普段は激しくされないと届かない最奥にまで達した。
「んぅぅ!」
「キア、気持ちだけでいいから!」
「うるさい! 俺がするから、お前はそこで喘いでろ!」
焦ったトレヴァーが止めても、いい感じにエロくバカになった頭は言うことをきかない。睨み付け、笑ったキアランは手をついて僅かに腰を持ち上げる。腰は根元まで入れた時に抜けた。
「んぅ、ふっ、あっ、はぁぁ」
腕の力と太ももの動きでどうにか小さく動いてみるが、これだけでも十分に気持ちいい。細かく中を擦る太く熱いものが、腰を落とす度に奥を突いてくる。既に腕も太ももも怠くて、腰は痺れているけれど止められない。啖呵切ったくせにプルプルしたままだ。
「キア、ごめん」
何を謝られたのだろうか?
分からないまま腰を掴まれたキアランは自分の体が浮き上がる感じに驚く。そしてそこから一気に落とされる衝撃に吐き気と快楽が混じって呻いてしまった。
「あっ、だめ……あぁぁ!」
「煽ったのそっちなんで、きけません」
「ひぅ! 深い! それ以上入らない!」
持ち上げられ、下からも突き上げられ、更に自重がかかる。コツコツと最奥をノックされる以上の部分に届いてしまいそうな恐怖に、キアランは焦った。だが、もう止まるわけもないのだ。
「――――っっ!!」
グプッと狭い部分を太く熱いものが抜けた瞬間、声にならない声が腹の底から出た。その後はカクンと体に力が入らなくなって、見えているのに訳が分からなくなった。
「っ! キア……っ!」
「あ……ぁ…………」
腹の底が熱い。焼けてしまいそうだ。
引き抜かれ、そこが妙にスースーする。内壁を伝って出されたものがポタポタ落ちてくるのは不快だが、それにすら反応ができなかった。
「ごめん、キア! あっ、えっと…………」
やり過ぎたのだろうな。ぼんやり感じた。正直体の感覚が掴めないから、指一本動かせないのだけれど。
「俺、タオル持ってきます! あっと、その前に水」
コップに水を汲んでくるが、起き上がるどころか動かない。それを見て取ったのか、そっと起き上がらせて自分に寄りかからせ、静かに飲ませてくれる。
そこは、口移しというのが定石ではないのだろうか?
それでも喉は潤った。声は出ないけれど。
「綺麗にするもの持ってきます。先、寝ていていいので」
キアランに布団を被せると、トレヴァーはバタバタいなくなってしまう。
「抱きしめて、キスだろバカが」
掠れて何を言っているのか分からないくらいの声で呟いたキアランは酷い疲れに目眩を感じて、そのまま意識を手放した。
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