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「う~ん」
ウェインはとても悩んでいた。それというのもスキー旅行券が欲しいのだ。しかも場所はアシュレーと初めて思いを通じ合わせた思い出の場所。
だがそれを手に入れるには女装コンテストに出なければならず、アシュレーは「出るなよ」と釘を刺してきた。
「どうしたんですか、ウェイン様」
チェスターが首を傾げながら一年目の訓練報告書を提出する。それを生返事で受け取ったウェインは、盛大な溜息をついた。
「女装コンテストグランプリのスキー宿泊券が欲しぃぃ」
「あー、魅力はありますよね」
チェスターも少し分かるのか、苦笑しながら呟いた。
それと言うのもあのスキー場、なかなかいい値段がする。前に行った時は偶然にも割引の話を聞いて問い合わせ、あると知って直ぐに申し込んだくらいだ。それでも、給料一月分を持って行かれた。
「女装……怒るかな?」
「まぁ……でしょうね」
「だよなぁぁ」
思い出の場所に旅行に行きたいが、アシュレーがいないと意味がない。しかも喧嘩ではダメだ。
散々悩んだウェインは、意を決してアシュレーへの直談判を決めた。
その夜、ウェインがベッドに正座で待っていると、風呂を終えたアシュレーが入ってきてビクリとした。
「ウェイン。どうした?」
「アシュレー」
「ん?」
怒られる。けれど覚悟は決めた。居住まいを正し、キリッとした顔をしたウェインはベッドの上で額を擦りつける勢いの土下座をした。
「女装大会出たいです! 許してください!!」
その勢いと気迫に圧されたのか、アシュレーはやや後退。だが直ぐに難しく眉根を寄せた。
「ダメだ」
「どうしても一位の景品が欲しい!」
「お前の女装を他人に見せびらかすのは了承できない」
腕を組んでガンとして譲らないアシュレーの様子に、ウェインは「ぐぬぬっ」と唸る。だが、どうしても欲しいのだ。この想いだけは伝えなければいけない。
「あそこは僕たちにとって思い出の場所じゃないか!」
「そうだが」
「あそこでスキーしたい! 夜はアシュレーとイチャイチャするんだ!」
「……」
ウェインの目には見える、アシュレーが揺らいでいるのが。
もう一押しすれば許可が出るかもしれない。そう睨み、ウェインはなおもお願いを繰り返した。
「アシュレーだって、あそこに思い入れあるだろ? 僕たちが初めてエッチしたのもあそこじゃないか!」
「……」
「頑張るからぁ」
「いや、だが……」
知り合いのいない、しかも思い出の場所でのお泊まり。この誘惑は意外と強い。だが同時にウェインの女装を他人に見せびらかすのも嫌なのだ。自分だけのものにしておきたい。
「……コンテスト終わったら女装のままお酌するよ?」
「いや……」
「そのまま部屋戻ってさ。その……しても、いいよ?」
「…………」
丸く大きめな目が上目遣いにアシュレーを見る。既にアシュレーの欲望は陥落一歩手前だというのに、これがうるうる泣きそうなのを見るとどうにも弱かった。
「……わかった」
「やった!!」
がっくりと疲れ果てて床に崩れ落ちるアシュレーを尻目に、ウェインはベッドの上で飛び跳ねる。その嬉しそうな顔を見ると、どうにも「やっぱダメ」は言えないものだった。
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