騎士団発、ミスコン決定!

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==========  そしてここでも、密かに参加を狙っている人物がいた。 「音楽鑑賞券、ですか」  張り出された女装コンテストの紙を見て、リカルドは考えこんでいた。  女装というのは恥ずかしいし、正直似合うとも思えない。だが、年始のコンサートは人気が高く末席でもチケットが取れない。実際無理だった。 「チェスターを誘って、その後デートをして、夕食も一緒に」  その後は宿舎に戻ってお酒を楽しみながら……。 「魅力的です」  出ようか、出まいか。羞恥心の問題だ。  その時医務室のドアが開いて、シウスが疲れた様子で入ってきた。 「シウス様、どうなさいましたか?」 「あぁ、リカルド。すまぬが少し寝かせてもらえぬか? 睡眠不足か頭痛がしてな」  随分珍しい患者に、リカルドは驚いた。それというのも、シウスが医務室にくる事が本当に稀なのだ。見舞いや、キアランやマーロウの付き添いにはくるのだが。 「何か、悩みですか?」 「まぁ、そのようなものじゃ」 「差し支えなければ、お伺いしても?」 「なに、大した事ではない。女装コンテストの事じゃ」  シウスの口から意外な言葉が出た事に、リカルドは更に驚きドキリとした。 「今年は年始の温泉地が軒並みダメでの、諦めておったのじゃ。それが王都から半日の、おあつらえ向きの温泉地の宿泊券が出たであろ? ラウルが出たがったのだが、暗府は本職故コンテストに出れぬと」  特に女装を得意とする女形は絶対に出せない。なぜなら圧勝なので。 「それで、ラウルが拗ねてしまったのですか?」 「それならば宥めようがあるのだがな。落ち込んでしまって、なんとしようか。だが、片道一日取られてはのんびりとなど出来ぬからの」  シウスは恋人を甘やかすタイプだ。その為に悩んでいるようだ。  だがこればかりは……。思っていたのだが、ふと悪い事が浮かんでしまい、リカルドは軽く首を回すシウスを見た。 「あの……」 「ん? どうしたえ?」 「女装コンテスト、出ませんか?」 「……それは、私がということかえ?」  素直に頷くと、シウスは途端に狼狽えた。仕事では狼狽える姿など見たことがないが、プライベートは違うようだ。 「実は私も、音楽鑑賞券が欲しくて迷っていました。羞恥心との戦いですが、一人でなければ少し勇気が出るかと」 「……なるほどのぉ」  腕を組んだシウスが、何やら悩んでいる。おそらく、迷っているのだろう。 「上位入賞できるかも分からぬが……二人でなら可能性も他より二倍か」 「はい。もしも私が温泉宿を手に入れましたら、シウス様にお譲りいたします」 「では、私が音楽鑑賞券を手に入れたら其方に渡せばよいな?」 「おそらく暗府を除いて女装に耐えうる人間は、多くはないでしょう。しかも欲しい物がないと出る人間はいないと思っていい。勝機はあるかと思うのですが」 「そうじゃの。年末のバカ騒ぎに付き合うつもりで、恥はかきすてにしてしまってもよい。それで欲しい物が手に入れば、悪くないかもしれぬな」  どうやら交渉は上手く行きそうだった。  軽く笑ったシウスをマジマジと見るが、三十代とは思えぬ目鼻立ちの良さだ。肌も綺麗だし、少し気難しい感じの知的な瞳がまたいいのだろう。何というか、美人だ。 「どうかしたなえ?」 「いえ、改めて見るとシウス様は美しいなと」 「なっ! ばっ、バカを言うな、まったく。其方もさして変わらぬぞ」  そう言って少し赤くなる人を、リカルドは頼もしい共犯者であり、ライバルとして認識した。
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