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こうして波乱を呼ぶミスコン。
だが、年末パーティーを翌日としたこの日、更なる波乱が巻き起こる事となった。
「風邪ですね」
「い゛~や゛~だぁぁ! うぇっふ! げふっ、ごふっ!」
「大人しくしなさい、ウェイン」
顔を真っ赤にし、鼻水に咳連発のウェインを診察したエリオットが、呆れ顔で言う。その側にはオリヴァーとアシュレー、そしてお粥を持ってきたランバートがいた。
「ぜっっだぃ、ミスコン出るぅぅ!」
「バカを言うんじゃありません。こんな状態で人の多い所に行ったら確実に患者を増やします」
「ズーギーィー!!」
上半身を起こすだけでフラフラするくせに、ウェインは未だに叫んでいる。それというのも、随分スキー旅行にご執心だったらしいのだ。
気の毒だがこればっかりは医者の言うことを聞かなければならない。ランバートは気の毒にウェインを見た。
「来年同じようなチケットをもらったら、真っ先に貴方に回しますから」
「やらぁ、今期生きだいのぉ」
「我が儘を言うな。そもそもお前が優勝できたかも分からないだろ」
「うぅ……ぐすっ……ずびぃぃぃぃ」
涙と鼻水で顔が大変な事になっているウェインを見ると、本当に気の毒になってくる。なんとかしてあげられればいいのだが。
「それにしても、ちょっと切りが悪いんですよね」
「どうしました、オリヴァー様」
「例のミスコン、参加者が丁度十名だったのですが。ウェインが棄権となれば、九名になるのですよね。まぁ、トーナメントなどではないので構わないのですが」
切りのいい数字というのは好まれる、ということだけなのだ。
そこでふと、ランバートは考えてオリヴァーへと向き直った。
「その空いた枠、俺が入っても問題ありませんか?」
「え?」
「え゛?」
オリヴァーもウェインも、少し驚いた顔をする。エリオットは困った顔をした。
「それは、願ったり叶ったりですよ。貴方でしたら完成度も高いですし、私の衣装が問題なく入りますから。ですが、よろしいのですか?」
「何がですか?」
「ファウストに、確認を取らなくて大丈夫ですか、ランバート。あの男、言ってはなんですが嫉妬深いですよ?」
エリオットまでがそんな事を言うが、オリヴァーもアシュレーも頷いている。
それに、ランバートは苦笑した。
「まぁ、大丈夫ですよ。これだけ俺とファウストの関係が知れているのに、俺に手を出す奴なんていませんよ」
「……それも最もだな」
「ファウスト様の怒りなど、全財産なげうっても返品したいですからね」
「はい。それに、ウェイン様にはとてもお世話になっていますから」
「ランバートぉ」
鼻の頭を真っ赤にしたウェインは、今度は感激の涙を流している。そしてぐしゃぐしゃの顔をランバートの腹筋の辺りに埋めた。確実に色々ついただろう。
「ありがどうぅ」
「でも、俺が一番になれるとは限りませんからね。それだけは覚えておいてくださいね」
「うん!」
こうしてコンテスト前日、思わぬ伏兵が参加する事となったのである。
その夜、ランバートは私室でファウストにこの事を話した。多分大丈夫だと思ったのだ。
「なるほど、そういうことか」
「俺、ウェイン様にはとてもお世話になったし、今もなっているから。こんな事で恩が少しでも返せるなら、そうしたいと思うんだ」
「分かった。確かに、恩は少しずつでも返さなければな」
二人の関係は周知であり公認だ。それもあって、ファウストの嫉妬は最近なりを潜めている。
今もとても優しく穏やかな瞳で見つめて、笑ってくれている。心地よい空気に、ランバートも甘えていられる。
「年始になったら、メロディさんの所に行くんだろ?」
「あぁ」
「甥っ子ですもんね」
「ルカの手紙ですら、浮かれまくっているのがうかがえる」
そう言って笑ったファウストもまた、楽しみなのだと分かるものだった。
メロディとルカの子は、アーヴィングとなった。生まれた時から大きかったからか、どっしりしているという。
メロディの体調は良好で、母乳もしっかり出るとのこと。
何よりもアーサーがメロメロな様子で、面白いと書いてあった。
「先に宝飾店に行って、お願いしてある指輪のデザインを確認しよう」
「うん」
これも、年始の約束だ。
指輪の作成をお願いした宝飾店で、二人はイメージをデザイナーに伝えた。まずはそれをデザイン画として数パターン用意し、その中から選ぶ事になる。
そのデザイン画が出来上がったと、数日前に連絡をもらったのだ。
「シュトライザーにも顔を出して行こう。挨拶に」
「けっこう忙しいね」
「まぁ、問題はないだろう」
だが、徐々に結婚へ向けて進んできた感じがある。それが嬉しくて、ランバートは目を輝かせている。
波乱含みのミスコン前日、それぞれの参加者の落ち着かぬ夜はゆっくりと更けていった。
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