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年末パーティーは波乱ばかり?
年末パーティー当日。ミスコン出場者は特別に早めに夕食を済ませ、三階の特別部屋へと集まっていた。
そこは既にオリヴァーの大きな衣装部屋状態で、至る所に色々なドレスがある。
「うわぁ……」
「これは……壮観と言いますか……」
「あやつ、何故これほどの衣装があるのじゃ?」
「……」
久々に見たオリヴァーコレクションに苦笑を漏らすランバートに、一歩引き気味のリカルド、呆れと同時に疑問を浮かべるシウスに、既に言葉もないベリアンス。
だがこれは大概の出場者が右に同じで、部屋の主だけが涼しい顔をしている。
「ルイーズ様のコレクションも、流石にここまでではありません」
「コナン、持っている事に疑問を抱かぬのかえ?」
「慣れてしまいました」
笑っているコナンを、他の者達が心の中で「南無」と唱えたのは言うまでも無いことである。
「さて、皆さんまずはコルセットを締めますので脱いでください。コルセットと下着はあちらに人数分ありますので、下着だけを履いてこちらへどうぞ」
そう示されたベッドの上には、確かに人数分の白い下着と、腰から胸まであるコルセットがある。これをつけ、胸元に詰め物をして胸を作るのだ。
「これが、コルセット……」
集まった男達のうち、ランバートとコナン以外が息を飲む。貴族女性の常識であるこの窮屈な体型補正下着は、男達の目には理解不能な物に映るのだ。
「さて、ここで固まっていても進みませんからね」
「そうだね」
ランバートは何度か仕事でこれをつけている。そしてコナンはプライベートでもこれをつけたことがある。故に、見慣れていると言えば見慣れている。
着ている服を入れる袋を手に、さっさと脱いでしまい、覚悟を決めて女性物の薄い下着を履くが、男がこれを履くのはもの凄い羞恥プレイだ。
実際、二人を見る他の男達が白い三角形の薄い布を手にわなわなと震えている。
「おや、二人は流石に覚悟が早いですね」
「まぁ、慣れといいますが」
「もう、さっさと終わらせてしまった方が楽なので」
「良い心がけですね、コナン」
にっこりと微笑むオリヴァーは、未だ踏ん切りのつかない男達へと声をかけた。
「コルセットを着けた人から衣装選びですから、急がないといいものがなくなっていきますよ」
「!!」
これにより、固まっていた男達もいそいそと服を脱ぎ、恥をかき捨て列に並んだのだった。
「うっ、これオリヴァー締めすぎじゃ!」
「何を仰います、シウス様。これはまだ緩いほうですよ。男は骨格的に女性のようなくびれができませんから、できるだけ締めなければ」
「苦しい!」
「直に慣れますよ。ほら、あちらの二人をご覧下さい。余裕でございましょう?」
既にコルセットを着け、自分の手で胸部分に詰め物をするランバートとコナンは、普段でも細い腰を更に細くしている。
「……奴らと一緒にするでない」
「まぁ、あそこまでは無理ですので、もう少しだけ締めますよ」
「痛い!! コレッ!」
ギュッと背中の紐を上から順々に締め上げられ、シウスはピーピーと音を上げる。そしてその姿を、後ろに並ぶ男達が青い顔をしながら見ているのだ。
何はともあれ全員が無事にコルセットを装着し、見よう見まねで胸を詰める。ここには個性が結構出て、巨乳好きはやはり自らの胸を大きくつくり、コナンはルイーズの趣味を反映してちっぱいに作り上げる。
その中、ランバートは程よい大きさの美乳を見事に作り上げている。
「上手いですね」
「まぁ、何度か経験がありますので」
「……あの」
「やりましょうか?」
困り果てているリカルドの胸に、ランバートは詰め物をしていく。目標は手の平で触れた時に、その手の中に収まるくらいの大きさ。形は釣り鐘形にしてみた。
案外シウスはこうしたことにこだわりがあるのか、苦戦しながらもなかなかいい感じに作っている。
意外だったのはベリアンスだ。上手に入れて形を作り、自分で触って足りない所に足している。彼はなかなか器用なのかもしれない。
これでようやくベースが完成。巨乳からちっぱいまで、様々な一〇人の女装男子の身体が出来上がった。
「さて、仕上がりましたね。コナンはルイーズの私物を預かっていますので、あちらへ。他の方は衣装を吟味して、気に入った物を手に取ってください」
ルイーズの号令に一斉に動き出す! ……というわけではなく、大概のメンツが困り果てている。それというのも、女装などしたことがないのだ。
その中でランバートだけが色々見て回っている。この経験の差は大きなものだ。
「あの、オリヴァーさん」
「はい?」
「よろしければ、見立てて頂けないでしょうか?」
遠慮気味にリカルドが言うと、他の面々のオリヴァーに殺到する。こうなると彼一人では手に負えず、急遽ランバートも見立てに参加する事となった。
「ではまず、リカルド先生から見立てますね」
嬉しそうなオリヴァーがくるりとリカルドを見て回る。そして彼に似合いそうなドレスを数点出してあれこれアドバイスをしている。
その間に、シウスは何やら心引かれる衣装を見つけたらしい。キョロキョロしながらも数点あるそれを手にしては、自分に宛がっている。
困ったのはベリアンスだ。ただ呆然と立ち尽くしているのを見て、ランバートが声をかけた。
「俺でよければ、見立てましょうか?」
「あっ、あぁ。すまない、お願いできるか?」
「はい。ではまず、イメージなどはありますか?」
「……騎士?」
「騎士……」
困る返答がきた。
だがこれにいち早く食いついたのがオリヴァーだった。
「ありますよ! とっておきのが!」
「とっておき!」
目を丸くしてほっとしたように笑うベリアンスだが、オリヴァーのとっておきがよいものであった事はあまりない。ランバートがオロオロして見ていると、出てきたのはやはり想像通りの初心者が絶対に躊躇うようなものだった。
「これ、本当に再現率が高いのですよ。ラン・カレイユの女性騎士をモデルにした読み物が流行ましたでしょ? それに登場する女性騎士の衣装を模したものでして、義妹のサフィールが『是非、義兄様に!』と作らせたようでして」
「はぁ……」
あっけにとられる。確かに再現率が高いが、これを男が着る勇気。
だがベリアンスは手をプルプルさせながらも、最後はグッと奥歯に気合いを入れた。
「これを頼む!」
「そうこなくては!」
犠牲者が着実に増えていく。
それらを見ていると、既に着替え終えた愛らしいコナンがカツラまで被ってこちらへときていた。
「メイクが上手くできないよ」
「俺がしてあげるよ。可愛い系だね?」
「お願い」
椅子に座らせたコナンの前に、借りてきたメイク道具を並べ、ランバートは可愛らしい人形を仕上げていく。丸く大きな目を更に大きくぱっちりとさせ、肌は自然な白さ。頬のチークは薄らと。そして口紅は愛らしい薄桃色を選んだ。
「可愛いよ、コナン」
「有難うランバート。ところでランバートはもう決めたの?」
「あぁ、うん」
既に自分の衣装は決めてキープしている。まぁ、キープなどしなくとも誰も選ばないだろう。
衣装部屋の大騒動はその後しばらく続き、その間にパーティー自体は始まりの時間を迎えたのだった。
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