ミスコンその後とその結果

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ミスコンその後とその結果

★ミック・オルブライト編  コンテストの結果は、既になんとなくだが分かっている。あの中では自分など足下にも及ばないだろう。むしろここまで実力差があると清々しいものだ。  それでも第一師団の仲間達は喜んで迎えてくれる。ドレスの背中をバシバシ叩いてくる。 「お前、デカくなければ女に見えるのな」 「化粧の魔法だよ、こんなの。俺自身驚いてるんだ」  決して不細工だとは思っていないが、こうまで化けるとも思っていなかった。街警をしていると時々、見知らぬ女性や男性から声を掛けられる事はあったが、本人は首を傾げていた。そのくらいには無頓着な性格だ。 「ってかさ、お前なんで出る事にしたんだ?」  仲のいい同期に問われ、ミックは苦笑した。 「レストランの食事券か、温泉旅行に目がくらんだんだよ」 「ペアチケットだろ? 相手は……って、もしかしてこれから!」 「違う違う! お袋にプレゼントしたかったんだよ」  慌てて否定し、苦笑して伝えると友人達は首を傾げる。ミックは更に苦笑した。 「実は俺、母子家庭でさ」 「そうだったのか?」 「十歳くらいの時に、親父が事故で死んでさ。そこから成人するまで、お袋が一人で育ててくれたんだ」  苦労させたと思うのだが、母は明るく度胸があり、頑張る人だった。ぶつかる事もあったが、概ね他よりも反抗期というものは少なかった気がする。 「そのお袋が、再婚考えてるみたいでさ」 「おぉ! 良かったじゃん!」 「おう。相手は仕事先の上司で、お互い再婚同士らしいんだけど、いい人でさ。お袋も嬉しそうだし、俺はちゃんと仕事してるし、賛成してるんだ」  紹介されたのは一年くらい前。でもおそらく、交際はもっと前からだと思う。  明るくて、ハキハキとした人だと思う。そして、情も深そうだ。奥さんを八年前に流行病で亡くしたと言っていた。息子が一人いて、既に独り立ちしているとか。 「じゃ、もしかして母親と再婚相手に?」 「まぁ、そんな所かな」  新年は仕事も休むだろうから、少しゆっくりと出来ればと思ったのだが。  まぁ、そんな気を遣わなくてもいいと言われそうな気もするが。  そんな話をしていると、少し離れた所から声が聞こえた。 「ダレンって、実は美人だったんだな!」  その名は先ほど知ったばかりだ。見れば数人に囲まれた黒いドレスの人物が見える。整った顔立ちにこれという感情は見えない、人形のように見える人だ。 「ってかさ、ダレンは何が欲しかったんだ?」 「レストランです」 「あー、確かにぺーぺーには厳しい価格帯だよな」 「いえ、父に贈りたいと思っていたので」  なんだか、自分とよく似ている理由だ。気になって見ているが、彼の表情は変わらないままだ。 「父が、再婚を考えているようなので、そのお祝いに」 「え?」  なんだか、似ているというか……ドンピシャすぎないか?  ミックの声に、無感情な黒い瞳がこちらを見る。そしてぺこりと、小さく頭を下げられた。 「ミック先輩、お疲れ様です」 「あぁ、いや。ダレン、君の父君というのは」 「はい、貴方の母君に交際を申し込んだのが、俺の父になります」 「!」  驚いた。だが、なんとなく相手の男性の面影もどこかある。ミックは慌てて頭を下げた。 「ごめん、知らなくて!」 「いえ、当然だと思います。ご挨拶した覚えはありませんので」  あまり抑揚のない、淡々とした物言い。嫌われているのかと思ったが、さっきから感情が読めない。ただ真っ直ぐに黒い瞳がこちらをジッと見ている。 「あの、俺の事……」 「知っています。以前何度か、親父の店に母君を迎えにいらした事がありますよね?」  ある、ね。  素直に頷くと、ダレンは頷いた。 「騎士団に来る前は実家の手伝いをしていたので、覚えています」 「え!」 「厨房の奥にいたので、先輩からは見えなくて当然だと思います」  全然気づかなかった。ちなみに母は飲食店でウェイターをしている。そして再婚相手はこの店の店主だ。  なんだか偶然だし、ちょっとくすぐったい。再婚の話があったとき、相手に息子がいる事は聞いていたがどこで働いているのかは聞いていなかった。ただ料理人で自立と言うことなので、どこかで料理修業しているのだろうと考えていた。  まさか騎士団で料理修業とは、思わなかった。  なんだかくすぐったい。彼が自分の義理の弟になるのかと思うと、ムズムズする。でもこれは嬉しいムズムズだ。  ミックは爽やかに笑い、ダレンへと手を差し伸べた。 「まぁ、何にしてもこれからよろしく、義弟」 「……はい、よろしくお願いします、義兄さん」  二人は握手を交わし、そのご友好を深めようと会場の奥のソファーへと移動していった。
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