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★ランバート・ヒッテルスバッハ編
ランバートがステージを降りると、隊員達はちょっと静かになった。
あくまで聖女のような気持ちで、慈悲に満ちた表情のまま静かに歩を進める。すると隊員達は無言のまま道を譲り、ランバートが行く先が割れていった。
見つけたのはソファーに座っているゼロスと、他の仲間達。そこまで進みゼロスの前に出ると、彼は苦笑した。
「お前もよくやるよな」
「似合うだろ?」
ニッと笑うと空気が崩れる。途端にシスターの仮面は剥がれ、コスプレ感が強くなった。
「お疲れ、ランバート」
「美人すぎて笑えないよ」
「レイバンもボリスも似合うと思うけれど」
「当たり前じゃん。でも、俺の女装はジェイさんだけに見せるんだ」
「俺は勘弁だよ」
ニヤリと笑うレイバンの側に立つジェイクが、僅かに眉を寄せる。おそらくそういう需要はないのだろう。
ボリスは嫌そうな顔だ。顔的には化けるとは思うのだが。
「ゼロス、大丈夫か? なんか大変な事になったみたいだな」
未だ衝撃が大きそうなゼロスは苦笑するばかりだ。まさか人前で告白され、しかも意図せず公開処刑を食らうとは。
……なんだか人ごとじゃないな。
「ゼロスは後輩にモテモテだからね」
「おい!」
「知らないの? ゼロス先輩に恋人はいるのか? っていうの、けっこう聞くよ」
「なに?」
「!」
背後からする声はクラウルのもので、ゼロスはビクリと震える。一方のクラウルは威嚇しそうな表情だ。
「いや、俺達もやんわりといる事は伝えてますよ! ……噂の域を出なくて」
「相手がクラウル様らしいというのも、どこか信憑性がないのか……」
コンラッドとハリーが慌てて言う。それでもクラウルは眉を寄せている。かなり心配している様子だ。
「もう一度キス」
「!」
「それをしたら確実にここで説教を食らうぞ」
クラウルの隣にいるファウストが苦笑して、ランバートの隣にやってくる。そしてふわりとベールの上から頭を撫でた。
「お疲れ」
「あれ? 余裕だねファウスト」
ランバートは首を傾げる。
これは、ファウストを誘惑するために選んだのだ。タイトで、隠れているからこそのエロさがある。視線も全部、ファウストを意識したのに。
少し残念そうにすると、ファウストが予想外に手に力を込める。ほんの少し痛いくらいの力で、見上げるともの凄く睨まれた。
「そう思うか?」
「あ…………やせ我慢か」
「部屋に戻ったら覚えてろよ」
憎たらしいと言わんばかりの声音と目に、ランバートは思い切り笑う。何せ軍神様が、女装一つで大ダメージだ。体を折って笑うと、ファウストは憎らしそうにそっぽを向いた。
「ランバート楽しそう」
「ファウスト様、案外苦労してるんだな」
周囲がそんな事を漏らし、ゼロスまで苦笑している。
ランバートは悪戯に微笑み、そっとファウストの首に腕を回し、滑らかな頬に唇を寄せた。
「!」
「拗ねないでよ、旦那様?」
「おま! あぁ……くそっ!」
「あははははっ」
くしゃくしゃと髪をかくファウストの下半身がちょっと大変そうなのを、ランバートは見逃さない。だからこそ前に立って隠していると、首に腕が回って肩にコツンと頭が置かれた。
「潰すからな」
「分かってるよ」
今夜はとても楽しくて、そして激しい夜になりそうだった。
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