初めてのアベルザード家(ジェイソン×アーリン)

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==========  色々と、忙しかった。そしてとても、楽しかった。  家族との食事で楽しかったなんて、初めての事だ。アーリンの家ではとても静かで、食器の立てる音の方が大きかった覚えがある。今日はそんなもの聞こえないくらい賑やかで、誰も不機嫌な顔をしていなかった。  お湯を頂き、ジェイソンの部屋へと戻るとワインのボトルとグラスが二つ置いてある。その側ではまだ少し濡れていそうな髪のまま、ジェイソンが楽しそうに絵本を眺めていた。 「なにしてるんだ?」 「あっ、おかえり」  顔を上げたジェイソンの隣に行くと、彼はポンポンと隣を叩く。座って本を覗き込むと、それは皆が知っているような絵本だった。 「俺、これが好きだったんだ。王子様が頑張るじゃん」 「あぁ、まぁ」  白鳥の湖。悪魔によって白鳥に変えられた姫を助ける為、王子が悪魔と戦うのだ。 「姉様のお下がりだし、読み聞かせの時はシェリーも一緒だったから、お姫様の本が多くてさ。でもお姫様の本はお姫様が主役なのな」 「あぁ、そうだな」 「でもこれはお姫様を助ける王子様の話で、珍しくてさ。何度も読んでって母様にせがんだんだ」  確かに指の所が少しだけ色が違う。それだけ読んだ証だ。 「王子様になりたかったんだよな。まぁ、無理だけど」  そう言うと、ジェイソンはパタンと本を閉じてそれを棚に戻す。そして、パッとこちらを見て嬉しそうな顔をした。 「でも、俺はアーリンの王子様になれたから満足」 「はぁ?」  馬鹿な事を言う。でも、恋人としては不覚にもドキリとした。 「俺はお前に助けられるお姫様じゃないぞ」 「知ってる。気持ちだけ」 「……俺は、お前の相棒になりたい。建国記にあるような沢山の、友情と信頼の上にあるような」  そして今、騎士団の中にいる沢山のカップル達のような。  伝えたら、ジェイソンは目を丸くした後で嬉しそうな顔をする。そして足早に近づいてきて、ガバリとアーリンに抱きついた。 「俺も、そうなりたい!」 「……なれるさ、きっと」  そう、信じているから。  アーリンを解放したジェイソンが手を引いて、テーブルセットへと誘ってくれる。まだ若いワインを開けて乾杯をした。 「立て続けに飲んで大丈夫?」  そういえば、昨日も美味しいチョコとウィスキーをご馳走になった。ふと思い出して、アーリンは笑った。昨日の事を思い出したのだ。 「昨日は凄かったな」 「あぁ、女装コンテスト?」 「本気すぎて思わず飲まれた」 「あぁ、わかる」  口に流し込む液体は昨日のようなトロリと濃厚なものではなくて、もっとライトでフルーティーだ。だから、それほど酔うこともないだろうと思う。 「ユーイン、可愛かったな」 「でもあれ、リーの為の女装だろ?」 「そうなのか?」  そういえば、そんな記憶があるような、ないような……  酔うと多少記憶があやふやになる。でも、ジェイソンの言葉は理解できる。あれは、たった一人へと向けられたものだったんだな。 「リーの事が好きなんだ、ユーイン」 「だな。どんな種類かは知らないけれど」 「恋人になったら応援する」 「勿論! あぁ、でもそっとしとくのがいいのかな? 俺、嬉しいと騒がしくなるからさ」 「かもな」  少なくとも、ユーインはあまり騒がしいのが得意ではないだろう。こっそりと、潜むような関係が似合いそうでもある。  だが意外なのが相手のリーだ。おおよそ恋愛に興味がある男とは思えない。気が優しく気遣いができるとは思うが。 「リーも、まんざらじゃなさそうだよ」 「そうなのか?」 「意外?」 「正直。リーはそういう……特定の誰かを選ぶような感じはなかったから」 「まぁ、俺もそれは感じる。でも、昨日酔ったユーインを相手していた時のリーは、とても優しい顔をしていたんだ」  記憶にない。でも、それはきっとある種の好きなんだろうことは分かった。 「リーも自分を語らないから、分からないな」 「それを言ったらスペンサーもだけどさ。あっちは完全にはぐらかす」  それは思う。スペンサーにおいてはこちらの過去を詮索しないから、自分もするなと言わんばかりだ。とにかく騎士団に入る前が完全に謎すぎる。ジェイソンは自分の子供の頃の話など、とにかく賑やかなのだが。  だが、探られたくない事がある。例え友人であってもだ。それは、よく知っている。  ふと、思っていたことが再燃する。アーリンの表情は自然と沈んで、グラスも置いてしまった。 「アーリン?」 「ジェイソン、俺……明日、ラザレスさんとステイシーさんに話してくる」 「なにを?」 「俺が……ルースの親族だって」  歓迎されて、優しくされて。そうすればするほど、後ろめたさがあった。大事な事を隠したままだという事だ。  大事な息子が国賊の親族と恋仲なんて、両親はどう思うのだろう。普通は嫌なんじゃないか。知らないまま関係を続けて、後になってバレて反対などされたら。  今ならまだ、この関係を終わらせても傷は浅いのではないか。そう、気持ちが後ろを向いてしまう。  が、何故かジェイソンは目線を少し泳がせる。そしてしばらくして、ガバリと机に手を付いて頭を下げてきた。 「ごめん!」 「ジェイソン?」 「あの……怒ってもいいから、聞いてくれる?」 「……」  何か、やらかしたんだろうな。  思うが、もう溜息しか出ない。アーリンは頷いた。 「実は……両親にはアーリンのこと、もう話したんだ」 「……は?」 「だから、その……ルースさんの件、話した」  心臓が嫌な音を立てた。知らない間にそんな……大事な事を相談もなく話したなんて。  怒りがこみ上げるのは、確かにあった。でも、目の前のジェイソンはとても真剣な顔のままだった。 「アーリンを両親に紹介したかったんだ! でも、後になって色々言われるのは嫌で……それに、そういうことで他人を見る両親じゃないって信じてたから」 「ジェイソン」 「ごめん……先に、アーリンに話さなくて。絶対に嫌だって、言うと思ったから」 「……」  多分、そう言っただろう。これが、アーリンの転落の始りだったんだから。  怒りは、少しだけ緩んだ。ジェイソンなりに考えてくれていたのだろう。なんなら、先に説得しようとしてくれたんだろう。  それに、それを知ってこれだけの歓待を受けたのだ。ラザレス夫妻に、アーリンを拒む様子はなかった。 「……もし、両親が反対してたらお前、どうするつもりだったんだ」  問いかけた。こいつが家族から大切にされてきたのは分かっている。ジェイソンの様子からも家族を大事にしているのが分かる。そんな家族から恋人を否定されたら、どうなっていたのだろう。  不安はあった。家族は切れない絆があるけれど、恋人は案外簡単に切れてしまう。捨てられただろうか。薄汚い過去もあるから、アーリンは自分をどうしても優先して考えられない。  が、それは杞憂だったのだろう。ジェイソンはとてもしっかりした目でこちらを見て、アーリンの手を握った。 「そんな事させない! 何度でも説得する。両親が納得してくれるまで会わせる気なんてなかったんだ。アーリンをこれ以上傷つけさせるなんて、例え両親でもさせない」 「ジェイソン」 「それでも反対されるなら、俺はここに帰る気はなかったよ。もう大人で、ちゃんと仕事もしている。両親に認められなきゃ大切な人を選べないなんて年じゃないから」  ……意外、だった。  男の顔をするジェイソンに、ドキドキする。そして、嬉しさがこみ上げてくる。こんなのを、選んでくれる事が幸せだ。誰にも選ばれなかったアーリンだから、嬉しくてたまらないのだ。  怒りは消えていた。その分、愛しさが溢れた。 「アーリン、俺はまだまだひよっこで、全然だけれど。でももっと強くて立派な騎士になる。頑張るから、そうしたら俺と結婚してほしい」 「!」 「本気だから! あっ、でも今じゃなくてさ。え? プロポーズしてる、俺?」 「ぷっ……ぁ、はははははっ」  締まらない顔をするジェイソンが、ジェイソンらしい。 「今のなし! 俺、ちゃんとその時にはプロポーズするから今のは、えっと」 「ほんと、ジェイソンらしいよそういう所」  直球で、素直で、飾らない。そういう所が、好きだよ。  席を立って、アーリンはジェイソンの隣にいく。そして思いのまま、ギュッと抱きしめた。 「いいよ、結婚してあげる」 「!」 「俺も、お前に負けない騎士になる。ランバート先輩みたいな、そんな騎士に」  軍神を支える程の力はないけれど、大事な恋人を支える力くらいは欲しい。今はまだこちらが倒れてしまいそうだけれど、ちゃんと乗り越えていくから。  腕の中のジェイソンが、抱きしめ返してくる。こういうところ、ちょっと可愛いと思う。 「俺、ファウスト様みたいにはなれないけれど」 「当たり前だろ」 「でも、そのくらいかっこよくていい男になります」 「……ジェイソンは今のままでも俺はいいよ」 「アーリン、好き。愛してる」 「……俺もだよ」  恥ずかしいくらい真っ直ぐに紡がれる言葉にムズムズする。でも、これを疑ったりはしないから。このままのジェイソンで、いて欲しい。  ワインがなくなって、寝る事になった。ジェイソンのベッドは十分な広さがあるから二人で寝ても窮屈ではない。なのに、ジェイソンはアーリンにくっついて寝たがる。 「アーリン」  誘惑するような声に応えないように背中を向けると、ジェイソンは明らかに不機嫌そうな空気になった。 「ダメなの?」 「ダメだ」 「どうして?」 「どうしてって……ここは宿舎じゃないんだぞ」  恋人の実家で堂々とやれるか。恥ずかしい。  そう思うアーリンとは真逆で、ジェイソンはとても不服な顔をする。そして徐に、項にチュッとリップ音を立ててキスをした。 「!」 「じゃ、アーリンは寝ていいよ。俺は触りたいから触る」 「だから!」 「寝たいなら寝ていいからさ」  そんな事を言われても、こんな事をされていたんじゃ寝られない。  唇が項や首筋に触れる。手が悪戯に腰骨を撫でる。際どいラインを服の上から。それに、淫乱な体が僅かに熱をもった。 「っ」  こんな所で、声を上げるのは恥ずかしい。これをジェイソンの家族に知られるのは恥ずかしい。でも、体が動きを追ってしまう。欲しそうに、熱を持っている。 「っ!」  割れ目の辺りを指が撫で、思わずゾクリと体が震えた。どうしようもない疼きが沸き起こる。これ以上は本当に耐えられない。  アーリンは振り向き、ジェイソンを睨み付ける。すると彼はとても哀しそうな顔をした。 「どうしてダメなの?」 「恥ずかしいだろ! お前は実家でも俺はお客さんだ。遠慮とかもあるんだよ」 「平気だよ、聞こえない。部屋離れてるし」 「そういうことじゃ!」 「アーリン、俺達恋人だよね? 恋人に触りたいって思うのは、恥ずかしい事なのかな?」 「……」  何も、言えなかった。  しょんぼりするジェイソンはとても哀しそうで……アーリンも、哀しい気持ちになる。  恋人で、付き合っている。その気持ちを確かめる行為を、恥だなんて思わない。気持ちのない関係とは違うんだ、大事な時間でもある。  でも………… 「……恥ずかしい事じゃ、ない」 「アーリン」 「……声、抑えられない。自分が分からなくなるくらい乱れるのは、後になって恥ずかしく思うんだ。俺は淫乱だから、そういう姿をお前に見せるのは少し……躊躇う」  声を聞かせろと言われる事はあった。だから、今も抑えられない。乱れた方が実入りがよかった。だから訳も分からないほど快楽に任せて乱れた。でも今になってそういう姿をこいつは、どう思うのだろうと考える。五月蠅くないか? 淫乱だと思われていないか? そういうのが、怖いし辛い。  正直に言えば、ジェイソンはまったく思っていなかったのだろう。キョトンとした顔をして、次にはガバリを抱きしめてきた。 「アーリンは可愛くてかっこよくて綺麗で大好きだよ! 乱れたら凄くエッチで、俺はずっとドキドキしてるし。それに声も掠れた感じが凄く可愛い」 「……そう、か」 「そうだよ! 気にする事なんてないって。アーリンは今のままでとても魅力的で、綺麗で、可愛くて、大好きなんだから」  正直、顔から湯気が出そうなくらい恥ずかしい。でもこの言葉が、気持ちが、アーリンを温めてくれる。彼の言葉に嘘はない。心がそのまま言葉に出ているのは、十分知っている。 「そうだ! 声が外に漏れるのが嫌ならさ、俺がちゃんと塞いでおくから」 「……え?」 「そらなら、恥ずかしくないだろ?」  ……ん? 何か、妙な所に飛び火していないか?  思ったのだが、こうなったら彼はとても素早い事をアーリンは失念していた。 ========== 「んぅ! んっ……はぁ……」  深く口づけられながら胸を捏ねくり回されると、酸欠と熱で頭の芯がボーッとする。もう、逆上せてしまいそう。 「アーリン」  掠れた色っぽい囁き声、潤んだ瞳。それらを見上げるアーリンもまた、涙でグチャグチャになっている。  声を上げそうになると、ジェイソンはすかさず唇を塞いだ。舌と舌が触れあい絡まる心地よさと気持ちいい刺激でいつもの倍は気持ち良くて、もう体に力が入らない。最初は押しのけようとしたけれど、もうそんな力も気持ちもなくなった。 「アーリン、気持ちいい?」 「気持ち、いぃっ」 「よかった」  嬉しそうに微笑む顔が、少しずつ男のものになっている気がする。付き合い始めた頃は大きな犬みたいだ、なんて思っていたのに。  悔しい、どんどん惚れる。 「ぁっ、んぅ! ふっ、ふぅぅ!」  指で捏ねられ、あっという間に硬くなった乳首を摘ままれるとツキンと背を突き抜ける快楽で声が上がる。でもそれは全部、ジェイソンの唇の中だ。  一緒に、裸の下半身同士が擦れて痺れる。ジェイソンの熱く硬いものが内腿に、そして昂ぶりに擦れる。ぴったりと体を合わせているから余計に摩擦があって、もうドロドロに汚れてしまっている。 「へへっ、気持ちいいな」 「っ!」  嬉しそうに、わざと擦りつけられてゾクリとした。 「今日はローションとかないし、挿れないでこのまま、擦りっこもいいかも」  それは……少し寂しいけれど願ってもない。  多少無理をされたって大丈夫だとは思う。完全に硬くなってしまうほど間を空けてはいないし、緩むのも早い。今垂れ流している先走りでも最低限大丈夫だ。何より、ちょっと酷いくらいでも興奮できてしまう。  でも、挿入されたらもう声をどうする事もできない。今も中でイッている。胸だけでも時間をかければ達する事ができる体は、ジェイソンの甘ったるい愛情で更にイキやすくなった。これで彼の逞しいものを後孔で受け止めたら…… 「っ! んぅぅ!」  想像だけで腹の中が締まり腰が浮いて強い快楽が全身に走った。中イキは繰り返すと本当に癖になると思う。 「あっぶな。イッちゃった?」 「(コクコク)」 「可愛い、アーリン。気持ちいいよな」  こんな淫乱を、笑って頭を撫でて見下す事もなく。この心は彼に救われている。  触れるだけのキスをする。ジェイソンが狙って、アーリンの昂ぶりに自分のものを擦るように腰を動かす。イッたばかりの腹の中が引き絞るように疼いて痺れて、アーリンは嬌声を上げた。すべてはジェイソンの中に、目からは涙が零れて、体を強く抱きしめられる。 「ぁ……はぁ、ぁあ……」 「何度でもイッていいよ、アーリン。俺も、気持ちいい」 「ふぁ! んぐ、んっ」  先端が擦れてぬるりと滑る。更にジェイソンの手が二人分の昂ぶりを軽く握り込んで扱くから、頭の中が真っ白になってコントロールが切れた。 「んぅ! ふっ、んぅぅ!」  止まらないまま、体が勝手に暴れる。気持ち良くておかしくなる。  ジェイソンはそれでもやんわり抱きしめて、少し急ぎ気味に扱きあげていく。一気に上り詰めたアーリンの先端からは白濁が散ってビリビリする。気持ちいいのと狂いそうなのが一緒に押し寄せて、気持ちいいのに泣いている。 「ごめ、アーリンもう少しだけ」  色っぽい息を詰めるジェイソンに頷いたアーリンは素直に体を差し出した。心臓、壊れそう。塞がれている唇から息が吸えていない。 「っ!」  ジェイソンが息を詰めて、自分とは違う温度のそれが腹の上に散るのを感じる。解放された唇から少し冷たい空気が流れてきて、うわごとみたいな声が漏れた。 「ごめん、アーリン。苦しかっただろ」 「あっ…………」  大きな手がグチャグチャの頬を手の平いっぱいで撫でてくれる。それにすり寄って、手首の辺りにキスをした。上手く声が出ないから、これしか好きを伝える方法が浮かばなかった。  けれど、これだけでジェイソンは顔を真っ赤にした。 「もう、可愛すぎるよアーリン」  困ったジェイソンの困った愚息が、まだ収まらない様子。それに、アーリンも困って笑った。 「明日、宿舎なら、いいよ」 「!」  途端、嬉しそうな忠犬の尻尾が揺れた気がして、アーリンはたまらずに笑う。  困った。この愛情はまだまだ深くて甘くて、どうやら底がないらしい。
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