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「暗府はミスコン出られないなんて、不公平です」
不満そうに文句を言うラウルの側で、イーデンは苦笑を漏らした。
「仕方がないよ、本職がアマチュアに混じっちゃ困るでしょ」
「ランバート出るのに」
「それについてはピンチヒッターだったんだから」
苦笑するネイサンもラウルを宥めている。そして、困った子を見るような顔をした。
確かに豪華すぎる景品に目がくらんだが、ネイサンの言う事が正論のように思う。ラウルがこんなにも言う理由は、どうやら年末の予定が狂った事にあるらしい。
「まさか予約が全然取れないなんて。シウスと一緒にのんびりしたかったな」
「近場は人気だからね~。貸別荘とかは?」
「それもダメでした。近郊の別荘地は殆ど貴族の持ち家だし、そもそも貸別荘とか少ないし」
「だな。移動に一日かかっちゃ新年の連休あっという間におわっちまうし」
「そうなんだ。シウス、休み取れないし」
団長とお付き合いをするのはこういう面が大変そうだ。イーデンはそんな事を思って、ふとネイサンを見た。
この人も何をしているのか謎なのに忙しい。気がついたらいないし、気づいたらいる。どこに行くとか、何をするとか、そういうことを恋人にも言わない人だ。
とはいえもう年末。雪も深くなるこの季節は暗府といえど動きは控える。現在進行形の仕事以外はもうほぼ休みに入ったようなものだ。
そこにクラウルが入って来て、何やら溜息をついた。
「どうしました、ボス?」
「あぁ……年末のパーティーで余興が欲しいと言われてな」
「余興?」
ネイサンが綺麗に片眉を上げる。そしてこの場にいる面々も顔を見合わせた。
年末のパーティーは主に騎兵府が中心となって行われる無礼講パーティーだ。宰相府や近衛府などは不参加も多いが、暗府は案外出る人が多い。
「俺も今年は参加予定だから、何かと言われれば協力はするが」
「嫁ちゃんにいい格好見せたいんでしょ、ボス」
ニヤリとカーティスが笑うのに、クラウルは少し恥ずかしそうな顔をした。
同期のゼロスを恋人にしているクラウルは、雰囲気が柔らかくなった。勿論仕事ではない場面でだ。執務室や暗府の控え室に詰める事が多いから、そういう顔を見る事も多くなった。
「ところで、ラウルは一体何を嘆いているんだ?」
「あぁ、ミスコンに出たかったって」
「あれか。今年は景品が豪華で参加者もそれなりに出ていると聞くな」
「暗府は出られません」
「当たり前だ、それを含めて俺達の武器だ。プロがアマと張り合うな」
「クラウル様までそんな事言わないでください。理解はしているんです、納得できてないだけで」
ブーブー文句を言うラウルを皆が笑う。その中で一人、ネイサンだけが何かを考えてポンと手を打った。
「では、余興にしましょう」
「は?」
「余興です。女形は女装を、男役は男装をしてステージに出ましょう。暗府のお仕事紹介にもなりますし、ラウルはシウス様の気を引けるでしょ」
「……うん!」
少し考え、ラウルはガタンと立ち上がって目を輝かせている。
「見世物じゃ……」
「嫁ちゃんに、いつもとは違うドレスアップした姿を見せたいと思いませんか?」
「…………」
……考えている。
イーデンはネイサンを見た。その視線に、ネイサンがニヤリと笑う。この顔はこの人にも何か思惑があることなんだと分かった。
かくして色んな人間が相手に見せびらかしたいという私欲で、余興は貴族の結婚式を想定したコスプレとなったのである。
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