お疲れ様を言いたくて1(トレヴァー×キアラン)

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 リカルドが退室して三十分ほど経った頃、トレヴァーが起きた。  起き抜けのぼんやりした顔は初めて見た。こいつはいつも先に起きるから、寝起きの顔なんてほぼ見ていないのだ。 「キア先輩?」 「具合はどうだ?」 「んっ、少しスッキリしてます」 「そうか」  硬い焦げ茶色の髪を撫でてやると、くすぐったそうに目を細める。けれど悪くないんだと思う。 「すいません、折角の休みだったのに」 「構わん。それに、休みなら明日から沢山できた」 「え?」  訳が分からないと目をぱちくりするトレヴァーは、いっそ面白い。年下のくせに妙に大人の顔をするようになったこいつの、年下らしい顔だ。 「お前は明日から俺と年始まで休暇だ」 「えぇ! あの、でも……」 「ファウスト様とウルバスの許可は取ってある。俺も引き継いできた。何よりお前はドクターストップだ」  伝えると、トレヴァーはとても申し訳ない顔をして項垂れてしまった。 「……そんなに、仕事がしたかったのか?」  あまりに落ち込むから、聞いてみた。少し声に棘があるのは、この期に及んでという気持ちがあるからだ。  トレヴァーは慌てて顔を上げて首をぶんぶんと横に振る。その後は、少し落ち込んだ。 「仕事がしたかったんじゃなくて、なんか自分が情けなくて、申し訳なくて。俺、もっと出来るって思っていたので」  この期に及んでまだそんな馬鹿な事を思っていたのか。睨み付けると、トレヴァーは余計に小さくなった。 「お前、俺に働き過ぎだと五月蠅く言っていなかったか?」 「言ってました」 「今度は俺が言うぞ。働き過ぎだ、休め」 「面目ないです」 「まったく」  溜息をついて…………それで全部流せるのだ。  色々、聞かなければいけない事はある。聞きたい事もある。だがとりあえず、今はいいだろう。 「それで?」 「え?」 「とりあえず明日は俺の実家に連れて行くつもりだ。その後は、どうする?」 「え? …………えぇ! キア先輩の実家ですか! 俺も!」 「あぁ」  意外と大きな反応にキアランの方が面食らう。なぜならトレヴァーは一度、キアランの母に会ったことがある。家にも来たことがあるのだ。  ランバートの婚約式をしたとき、ヴェールの宛てを探していたトレヴァーから相談を受けて実家に眠っている物を思い出した。本当は自分だけが受け取りに行くつもりだったが律儀なトレヴァーは自分も行くと言って受け取りに行ったのだ。  そこでキアランの母ハリエットとも話をしている。  正直、あの人を攻略済みなのだから後はもうなんてことはないだろう。 「お前、うちの母親に会っているだろ。今更だ」 「それはそう、ですけど……。あの、それなら俺の家族にもキア先輩紹介しても……」 「一晩で胃に穴が空くが、いいか?」 「いいわけないですよ!! もう、分かりましたよぉ」  潔く諦めたらしい。そういう部分もキアランとしては好ましい部分だ。無駄な労力を使わなくていい。 「でも、突然で大丈夫ですか? あと、夕方くらいにおいとま……」 「何を言っているんだ? そのまま泊まれ。翌日から一緒に動くつもりでいるんだから、わざわざお前の家に迎えに行くとか面倒だろ」 「泊まり!! え、本気で? ……うわ…………」  トレヴァーががっくりと肩を落とす。だが、それだけで後は頭をガシガシかいている。分かっている、こういう時は折れてくれる時だ。 「……とりあえず、お土産何がいいですかね?」 「気を遣うな」 「最低限のラインなんで、これは譲りません」 「……分かった。土産は何でもいいぞ」  どうにか受け入れてくれたらしく、キアランは満足に笑う。翌日の予定は、とりあえず決まったようだった。
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