4 ベスという少女

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「まぁいいさ、それよりいつまでルークと付き合ってるの?」  ベスは声を潜める。彼女が聞きたかったのはこちらの方だろう。 「まさか、あんな奴と結婚するつもりじゃないよね」 「シッ」  ヴィッキーが人差し指を唇の前に当てて、ベスはビクリとした。すぐ傍を人が通りかかったのだ。目の前を人が横切っていく間、ベスはずっとおかしな笑いを浮かべていた。  じきに通行人の姿は遠ざかっていき、ベスはホッとする。明らかに彼女は他人に怯えていた。  ヴィッキーは安心させるようにベスの肩を抱く。  しばらくしてベスが落ち着いたのを確認してからヴィッキーは口を開いた。 「そうね。仮に彼が求婚をしてきたら、受けるつもりでいるわ」 「はぁ? 冗談でしょ」 「大丈夫、彼の妻にはならない」  にこりと笑うヴィッキーに、ベスはわからないと言う顔をする。この娘の出来の悪さに苛立ったが、ヴィッキーは決して顔には出さない。  もしも今言った通りにルークが求婚してくるようなことがあれば、これほどまでいい機会はないだろう。  もっとも今のところ、彼にそうさせる予定はないのだけれど。  愚かなルークはヴィッキーの魔法で心を開き、好意を抱くまでになった。彼に求婚させようと思えば簡単に叶うのだが、さすがにヴィッキーもそこまでは望んでいない。  むしろ考えただけで虫唾が走るほどだ。 「ベス、そんな顔しないで」 「だって意味わかんないもん」  本当に、この娘には呆れてしまう。  でも彼女は誰よりもヴィッキーを慕っていた。  同じようにヴィッキーを慕う人間は村中にたくさんいるが、どいつも無能ばかりで役に立つ人間などいない。  雑貨屋の二階に暮らしているこの病弱な少女もその一人だが、村で唯一ヴィッキーが心を開いている。と、ベス本人は思っている。  わざわざ、そう思わせたのだ。他の人間にはしないような悩みの相談もこの少女には聞かせた。ほとんど嘘ばかり話したが、彼女は信じた。  そうなるようにちょっとばかし心をいじってやっただけなのだが、自分こそヴィッキーの一番の理解者だと、彼女は信じて疑わない。  滑稽なのことに、ベスは自分がヴィッキーのペットであるのだと気付いていなかった。 「それよりもあなたに大事な話があるのよ」  ベスは瞳を輝かせた。 「あたしに役立てることがあるの?」 「あなたにしか頼めないの」 「任せて、いつでも協力するよ!」 「ありがとう」  ヴィッキーは笑った。 「実はね、保護をしたという動物のことなの」 「なに? まさか一緒に世話をしろとでも言うの?」 「そうね、それに近いかも。もっとも動物を保護したと言うのは嘘なのだけれど」 「え?」 「あのね」  ヴィッキーは、以前ルークに話したのと同じような内容を伝えた。本当は記憶喪失の男を保護しているが、動物だという話にしておいたと。  どうせこの秘密も隠し通せるものではない。なんせ、あのルークに気付かれてしまうくらいだ。それに、ヴィッキーが森に入っていくのを怪しんだ馬鹿がやって来て、フェルに石を投げたこともある。  他の村人たちも遅かれ早かれフェルについて知ってしまう。  そうなってしまうのは非常に面白くないが、こればかりは仕方がなかった。 「は? つまり、みんなが怪物だとか言って騒いでいる奴が、あんたの世話している動物?」 「彼の友人になって」 「なに言っているの?」  ベスはぽかんと口を開いた。  この反応など安易に予想できていたが、それにしてもなんて間の抜けた顔なのだろう。 「まずは一度彼と会ってほしいの」 「嫌だよ!」  いきなり、ベスは大きな声を上げて立ち上がった。胸を抑えて、荒い息を吐いている。
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