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「お願いベス」
ベスは弱々しく首を振る。
「そんなの、いくらヴィッキーの頼みでも」
「残念ね。あなたにしか頼めなかったのに」
その言葉にベスは顔を青くした。
「いいのよ、無理しなくても。この件は他の人に頼むから」
「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ、ヴィッキー!」
ベスは顔を真っ青にして明らかに怯え出した。
彼女が自分の立場を危うんでいると手に取るように分かった。
「じゃあ、協力してくれるのね」
「あ、あの、それは」
「あなたならきっと協力してくれるって信じていた」
有無を言わせずベスの両手をきゅっと握って微笑んだ。
ベスは怯えている。
フェルが怪物だと呼ばれているから恐ろしいのではなく、他人との交流を危うんでいるだけだ。
それに気付かないふりをしてヴィッキーはにこやかに言ってみせた。
「じゃあね、ベス。帰ったらちゃんと薬を飲んで。それと口にする物には気を付けるのよ」
まだ困惑した様子のベスをそのままにしてヴィッキーは去って行く。
ベスは半年ほど前にこの村へやって来た。
雑貨屋の主人の遠い親戚なのだそうだが、過去に相当ひどい扱いを受けてきたらしく、常に他人を警戒している。
心の弱いこの少女は、ヴィッキーにとって格好の餌食だった。
彼女は他人を恐れている。そんな彼女の心には実に容易く入り込めた。他人に壁を作る者は、壁の内側の人間に依存する。
ベスがヴィッキーだけを信用するよう仕向け、その壁の中に他の人間を入れないようにした。
他人にいじめられるのが怖いなら、本当の自分を見せてはいけない。
自分を偽ればいい。
心を病んでいるふりをすればいい。
そうすればみんな腫れ物に触れるように扱ってくれる。
そうすれば誰もあなたの心に気付かない。
あなたの心は傷つけられない。
ベスはこの言葉を受け入れた。
ヴィッキーの言いつけ通り、周りの者たちに自分は心を病んだ少女だと思わせていた。あまりにも大げさすぎる演技のおかげで、周囲の人間は彼女と関わり合いになりたくないと思った。
彼女はそうして他人と壁を作って自分の身を守ろうとしているのだ。
なんて健気な姿なのだろう。
自分自身の為になるのだと固く信じながらわざと村人から不気味がられる行動を取り、結果彼女はどんどん孤立していくのだ。
ヴィッキーにとってベスはただの操り人形だ。
彼女を傀儡とすることが、ヴィッキーにとって極上の快感となっていた。
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