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「ルークはいい奴だと思う」
ルークが帰った後、おもむろにフェルは口を開いた。
「だから、そんな風に嫌うのはよくないと思うんだ」
先日ヴィッキーが聞かせた話によって、彼はルークを警戒するようになっていた。だから今日の彼は慎重にルークを観察していた。
ルークが身に着けていた木の実のブレスレット。それが子供にもらった物だと気付いたとき、フェルは少し安心していた。つまりルークは子供たちに優しく、慕われているという簡単な理論はわかったらしい。
「あなたの目には、彼がとても善良に見えるのね」
内心ヴィッキーは呆れてしまう。彼は他人を疑うことを知らな過ぎる。実際に悪人と出会ったとき、本当に騙されてしまうのではないだろうか。
もっともこの村に自分以上に醜悪な心の持ち主はいないだろうけれど。
「確かにあなたの言う通り、彼は悪い人ではないのかもね」
フェルはほっとした顔をした。
そう、ルークが善人なのはあながち間違いではない。実際に態度も言葉遣いも丁寧で、女性からも人気が高い。とは言えヴィッキーは彼を信用していなかったけれど。
「それなら」
「でも彼の方は本当に、あなたを大切に思っているのかしら?」
この言葉にフェルはまた不安そうな顔になった。
だってどうしても彼を許せないのだ。この嫌悪感がぬぐえる日がくるとは思えない。
フェルがルークを気に入り掛けているのは非常に腹立たしい事態だ。彼には自分一人にだけ執着してもらいたかったのに。
だがある意味では、フェルがルークを信頼するのはこちらにとって決して悪くない事態でもある。彼がルークに好意的である分、裏切られた時の衝撃はより大きなものとなってくれるだろうから。
「それは、どういう」
「彼は上辺の態度はとてもいい人よ。でも本心では恐ろしいことを考えている」
「そんなことない」
フェルは否定するが、ヴィッキーは悲しそうな目を向けるだけだ。
「そうね、私もそう思いたい」
ヴィッキーは悔しげに握った拳を震わせた。こればかりは完全に演技だとは言えない。
「でも駄目なの、姉さんのことを思うと悔しくて」
「なにかの間違いじゃないのか? ルークがひどいことをするなんて思えない」
フェルは当惑の面差しでこちらを見る。苛立ちが増す。
どれだけあの男にほだされているというのだと、叫びたい気持ちをおさえる。
「ごめんなさい、今日はもう帰るわね」
話しを途中で中断して帰ろうとすると、予想通りフェルは困惑してくれた。ヴィッキーは扉を開け、一度振り返る。
「フェル」
驚いてこちらを見る彼に言ってやった。
「どうか、気を付けてね」
なにを? という疑問が彼の口から出てくる前に扉を閉めた。
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