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5 疑心暗鬼
ヴィッキーがフェルと親しくしている一方で、ルークもフェルを気にかけていた。
彼はよく村の菓子屋で購入してきた焼き菓子をフェルにあげて餌付けしている。癖のある味の物だったがフェルはそれをたいそう気に入ったらしい。
よくルークなんかに他人の味の好みがわかったものだ。フェルがすっかり胃袋を掴まれてしまって面白くない。
お人好しなルークが誰と関わろうがどうだっていいが、フェルが彼に懐いてしまうのは気に入らない。
ヴィッキーは自然と、ルークとフェルを引き離してやりたいと思うようになっていた。
そしてその為に、ヴィッキーはベスを利用していた。
「ねぇベス、具合は大丈夫?」
ヴィッキーはベスの部屋を訪れていた。ベスは雑貨屋の二階にある隅の部屋で暮らしている。彼女はこの店の主人の遠い親戚に当たるらしい。
人目を恐れているのか、部屋の窓はいつもカーテンで閉め切られており、開けられることはない。
ほこりっぽい部屋で椅子に腰かけたヴィッキーは優雅に手を組み合わせてベスを見据えた。ベスの顔色は悪く、なにかに怯えているようだ。
彼女の不安の原因がなんなのか、ヴィッキーには思い当たることがあった。
「気分はどう?」
「いいわけがないよ」
ベスは青白い顔をしてひどい形相をしている。
「ねぇベス、フェルと仲良くしてくれてありがとう」
フェルの名前を出した途端にベスの肩が揺れる。
「彼はあんな見た目だけれど、優しくていい人なの」
「へぇ、そう」
「とても頼りになる人なのよ。たくましくて、力もあるし」
ベスの握りこぶしが震えている。ヴィッキーはベスになど目もくれず、フェルがいかに素晴らしい人物かを語ってみせた。
ヴィッキーが彼に思いを馳せて微笑むだけで、ベスは唇を震わせる。
彼女は今にも倒れてしまいそうなのをどうにかこらえている状態だ。
「これからも彼と仲良くしてあげて」
ベスはいよいよよろけて、どうにかベッドに腰を落ち着かせると、信じられないという眼差しを向けてきた。
「なんで、なんでなのさ?」
「彼は記憶もないし、あの容姿のせいでほとんどの人は彼に近付かない。だから」
「そうじゃない!」
ベスは叫んだ。ほとんど金切り声に近かった。
「あたしがいるのに、なんで他の奴なんかを気にしているのさ! しかもあんなのだよ!」
ベスは呼吸を荒くする。
しばらくの間震えていたベスは、やがて強張った表情で声を絞り出した。
「もうやめてよ」
彼女の嫉妬、怒り、そして恐れが伝わってくる。自分が捨てられてしまうのではないか、価値のない人間になってしまうのではないかと不安に感じているのだ。
泣き出すベスをヴィッキーは優しく慰めた。ベスの瞳には明らかにフェルへ対する憎悪の色が宿っていた。
「ひどい顔色ね、今日はもう休んで」
「あ、あんな奴なんか、あんな奴」
わけのわからない独り言と共に、べスはベッドに枕を叩きつけた。
「てか、なに? あいつに惚れてんの?」
ヴィッキーは答えないが、ベスは肯定と受け取ったらしい。
「うわ最悪」
「そんな風に言わないで」
「あんたがルークを嫌いなのは知っている。あたしもあいつが嫌いだ。だから別の男に惚れるのはわかるよ。でも、あいつはもっと嫌いだ」
ベスの目は嫉妬でぎらぎら光っている。
彼女がこんな風にひどく言うことくらい、最初からわかっていた。だってヴィッキーが、そうさせたのだから。
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