5 疑心暗鬼

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 ここ最近、フェルの元へ行くときに必ずと言っていいほどベスを一緒に連れて行った。  ヴィッキーはわざとベスの前でフェルを頼り、よく褒めた。これまでベスにしか聞かせてこなかった嘘っぱちの悩み相談も彼に持ち掛けた。  フェルはこの好意を素直に受け入れて照れていたが、そんな彼にベスはいつも嫌な笑いを浮かべていた。  今まで自分一人にだけ向けられていた信頼が、他人の物になってしまった。  ベスにはそれが許せなかったのだ。  ヴィッキーはベスの横に腰掛けてそっと肩を抱いてやる。 「あなたがどうしても彼を嫌うのなら、それも仕方がないわね。寂しいけれど、もうあなたと会うのもやめるわ」 「っ、は?」 「だって彼と仲良くできないのでしょ」 「だ、だ、だからってなんでそうなるのさ!」 「フェルは私にとって大切な人。でもそれを理解してもらえないのはつらすぎる」  ヴィッキーは目を伏せた。 「もちろんあなたが彼を嫌ったり、怖がったりするのを否定しない。でもあなたの口からその言葉を聞くのは悲しいの。私はあなたを嫌いたくない」  ヴィッキーは立ち上がった。 「私がこれまであなたに話したことを、全部忘れて。ルークへの憎しみも、あなたに打ち明けた悩みも全部、忘れて」  ヴィッキーはそのまま部屋を出ていこうとする。ベスの顔に絶望が浮かんでいるけれど、ヴィッキーはそれに気付かないふりをした。 「これからは、あなたの助けを借りず彼だけに頼ることにするわね」 「待って!」  ベスはヴィッキーの手を掴む。 「そんなこと言わないでよ! あたしじゃ、役に立てないっていうの?」 「まさか! でもあなたに無理をさせられないもの」 「無理なんかじゃないよ! フェルともうまくやってみせる。だからあたしにもこのままあんたの手伝いをさせてよ!」  ヴィッキーは心から嬉しそうにベスの手を握る。 「ありがとう! あなたなら、そう言ってくれるって信じてた」  ベスは泣きそうになりながらも、ヴィッキーを引き止められて安堵していた。彼女はヴィッキーに頼られることで自分の存在意義を見出し、ぼろぼろになった心を保っているのだ。 「大丈夫? 顔色が悪いわよ」 「平気だよ。ちょっと、興奮しすぎて苦しいけど」  いかにもベスの身を案じるようなそぶりを見せると、彼女はどうにか笑ってみせる。  ヴィッキーはいつもそうしているように、持参してきた薬をベスに渡した。ベスは医者の出す薬は飲まないけれど、ヴィッキーが自分の為に作ってくれた物なら安心して口にできるのだ。  薬を飲ませるとベスは落ち着いた。まだ顔色は悪いままだが、明らかに先ほどよりも調子がよさそうだ。 「それじゃあ、今日は帰るわね」 「うん」 「ゆっくり休むのよ。それに、口にする物には気を付けてね」 「うん、わかってるって」  そうしてヴィッキーは帰路についた。  単純なものだ。  ベスはヴィッキーの手伝いをさせてくれと言う。それは自分を見捨てないでくれと言っているのに等しいのに、当のベスは自分の本心に気付いてすらいないのだ。  本当はベスを気に掛ける人間は他にもいるのに、ベス自身がそれを拒んでいる。ヴィッキーがそうなるように仕向けたから。  だからこそベスはヴィッキーに縋るのだ。
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