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フェルは悩んでいた。
ここ最近、ヴィッキーがよく友人を連れてくるようになった。
ベスは顔色の悪い痩せっぽっちの少女で、ヴィッキーによると、彼女も他の人からいじめられてひどく傷ついていたらしい。
だからフェルは彼女と親しくなりたいと思っているのに、ベスの方は心に壁を作っているみたいだ。表面上はよく笑っているけれど、その笑顔が時々怖く感じてしまうのだ。
「フェル、いますか?」
ドアが叩かれてフェルはビクついた。おずおずと開けると、にこやかな顔をしたルークが立っている。
「こんにちは」
「ん」
フェルは小さく頷いた。
彼はよくうまい菓子を持ってきてくれるが、フェルの中には彼に対する疑心暗鬼が少なからず存在している。
ルークのせいで、ヴィッキーの姉が死んだらしい。詳しい事情は知らないが、ヴィッキーは本当につらそうな様子だった。
何度かルークに本当のことを聞こうと思った。だけどヴィッキーの忠告もあり、それができずにいた。
それからほんのちょっと話をしただけでルークは帰ろうとした。いつもはもう少し長居していくのに、今日はどうしたのか。
「もう行くのか?」
「はい。今日はヴィッキーと村の子供たちの世話をする予定なので」
フェルは胸が痛むのを感じた。
優しいヴィッキーが、自分ではなく他の人の物になってしまう。そんな気がしてつらくなる。
ルークは帰ってしまったが、お気に入りの焼き菓子を置いて行ってくれた。ヴィッキーは嫌っているらしいが、フェルの口には合う物だ。
いつも使っているカップにお茶を淹れて、ありがたくいただいた。
しばらくして、どういうわけかフェルは眠くなってきた。まだ外は明るいのに、不思議な感じだ。
普段なら感じない強い眠気のせいでどうしてもうとうとしてしまう。
それからどれくらい経ったのか、フェルが長椅子に横たわって微睡んでいたら誰かがくる気配がした。
ヴィッキーだろうか? それとも、また村の誰かが来たのか。
確認しなければと思うのに体を動かせない。
「っ、う」
なんとか重い瞼を持ち上げるが、視界がぼやけてどこになにがあるのかもよく見えない。
床板がぎしぎしする音が聞こえる。誰かが近付いてきているのに、そこにいる誰かに反応することも叶わない。
「、あ?」
どうにか顔を上げる。
ひどくぼやけた視界の中に、人の姿が見える。外套を深く被っているみたいだが、どうしても視点が合わなくて、すぐ目の前にいるはずの相手が誰なのか理解できない。顔が見えないどころか、男なのか女なのかも判別がつかないくらいだ。
「だれ?」
尋ねると、一瞬だけ相手は怯んだ。けれどすぐにフェルに襲い掛かってきた。
「!」
顔もわからない誰かともみ合いになって、フェルは長椅子から床に叩き落された。
相手は手になにかを持っている。窓からの光を反射するそれが、鋭利な刃物であるとすぐには理解できなかった。
「あっ」
咄嗟に交差させた腕を刃がかすった。
フェルは怯えた。体が言うことをきかない中、不自由な動きでどうにか逃げようとする。
相手がフェルに圧し掛かり、もう一度凶器を振り下ろそうとした。
「誰かいるの?」
聞き覚えのある声に、フェルと彼の上にいた相手は一瞬間硬直する。この声、ヴィッキーだ。
「ひッ!」
ヴィッキーが短い叫びを上げた。
「やめて、彼になにをするの!」
ヴィッキーは金切り声を上げる。相手は驚いた為か凶器を振り回した。
そこから先に起こったことを、フェルの頭はうまく処理できなかった。
ヴィッキーの声なのか相手の声なのかわからないが、甲高い叫びが聞こえて、それがずっと頭の中にこだましていた。
いつの間にか、フェルの意識は闇の中に沈んでいた。
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