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彼にかけた魔法が続いているのを確認して、ヴィッキーは自分から彼の手に触れる。
ルークは頬を染めてはにかんだ。似たような表情を作って、そのまま彼の手に指を絡める。
この指をへし折れたらどれだけいいだろうと思ったが、ヴィッキーは心の内を悟られないように取り繕う。彼に慕われてはいるが、ボロを出すのはまずい。
それを見ていた男の子たちがはやし立てるような声を上げた。彼らからすれば、二人は仲のよい男女に見えていることだろう。笑わせてくれる。
「はぁ、シャーリィもあなたみたいならよかったのに」
やや唐突に出てきた言葉にヴィッキーは面食らう。
「どういう意味?」
「シャーリィだったらこんな風に適度な距離感と言うか、そういうのを保てなかったなと思って」
なんだそれはとヴィッキーは苛立つ。
「でもあなた、姉さんと親しかったでしょう?」
「確かに仲良くしてはいたけれど、正直言って迷惑だったというか」
「迷惑?」
「ああ、迷惑というのは語弊がありましたね。なんというか、距離が近すぎたせいですね」
ルークはこれでもヴィッキーを誉めようとしただけだろうが、その為になんの悪気もなくシャーリィを侮辱したのだ。
あれほど素晴らしい人が他にいるものか、姉に付きまとっていたのはお前のくせにと、ヴィッキーは腹立たしくなった。
「シャーリィも運がありませんでしたね。まさかあんな死に方をするなんて」
途端、ヴィッキーの全身から血の気が引いていった。
彼女が青ざめたことに気付いたのであろう、ルークの眉が怪訝にひそめられる。ヴィッキーはすぐにでも彼を殺したい激情に駆られた。
触れられることにさえ嫌悪を覚えるというのに、こんな能天気な顔でその話題を持ちかけてくるとは。
「ごめんなさい、ちょっと気分が悪くって」
子供たちが何事かと思ってこちらへ視線を向けてくる。
「大丈夫ですか?」
「少し休めば大丈夫、みんなを連れて先に帰っていて」
心配そうにこちらの様子を伺いながら、ルークは子供たちと去って行く。
どうにか笑顔で一行を見送り、彼らの姿が完全に見えなくなったのを確認すると、ヴィッキーは森の奥へ入って行った。
なんて忌々しいのだろう。
ダンッとすぐ傍にあった木の幹に握りしめた手を叩き付けた。さっき女の子にもらった花の首飾りも怒りに任せて引きちぎり、踏みつけてやる。
「忌々しい」
とうとう絞り出すようにその言葉を口にした。
あの男は当時のことになんら罪の意識を感じていない。姉の死に対して完全に無自覚であるのだ。
あいつが殺した、あの男が火祭りの夜に、姉を死に追いやった。燃え盛る炎と悲痛な叫びが今もヴィッキーの心を苛んでいる。いつも髪を結わえているリボンは姉の形見だ。
姉はどういうわけかあの男を心から愛していた。だから同じように彼が自分だけしか見えないように魔法をかけたのだ。
ルークが自分を愛するようにした上で、火祭りの夜に命を奪ってやる。
その狂おしいほどの思いがヴィッキーの心の支えとなっていた。
どす黒い心を持つ恐ろしい女。
彼女はまさに「魔女」と呼ぶのに相応しかった。
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