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コンクリートロードを走る
「はぁ? お前らあの名作を見てないのかよ!?」
時流研究会の部室で声を荒げたのは、非部員でありながら時折遊びに来る下宮秀夫だった。
「いい作品だというのは知っているが、僕は中々見る機会が無くてな」
まず答えたのは真矢だ。
「俺も“天空”のやつとか“もののけ”のやつは見てるけど、恋愛モノはあんまり興味がないな」
透哉は同じスタジオの違う作品は視聴したことがあると言う。
二人の話を聞き、秀夫の弁は更に加熱していく。
「悪いことは言わない、絶対見ておいた方がいいって。失った青春時代に想いを馳せることになるから! 絶対!」
読書好きな少女とヴァイオリン職人を目指す少年が、中学三年生という思春期にありがちな、恋と進路に悩みながら精一杯青春を謳歌するアニメーション映画。
それが秀夫が熱弁を振るい、真矢と透哉に推している不朽の名作だった。
「あーもう分かった。お前らこのブルーレイ貸してやるから、見ろ。今日見ろ!」
唐突に鞄から取り出されたのは、件のブルーレイディスクだった。パッケージには汚れ一つなく、秀夫が大切にしていることが窺える。
「いや、何で今持ってるんだよ……」
若干呆れたように問う透哉を無視して、秀夫は鼻息荒くブルーレイディスクを差し出す。
「俺、これ見る度に走りたくなるんだよなぁ。『ちくしょー! 俺もそんな青春を送りたかったー!』って叫びながら」
「そこまで言うなら拝借しよう」
真矢が受け取ったことに満足した秀夫は「じゃあ俺バイトだから」と言って、鼻歌を響かせながら部室を出ていった。
「で、これをいつ見るんだ?」
「僕も透哉もこのあとバイトだろう? 明日は大学休みだし、バイトが終わった後に部室に集合してってのはどうだ?」
「お。それいいじゃん。真夜中に映画を見るってのもオツなもんだよなー」
「決定だな。ではまた夜に」
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