とある女性とこころや

6/7
前へ
/10ページ
次へ
 店を出て腕時計を見ると、四時から一分も動いていませんでした。ここに着いた時間と同じなのです。  不思議に思っているとゴゴゴゴと言う地響きとともに、こころやがなくなっています。  慌てて龍の頭をさすっても、ただ、カアカアと何処かでカラスが鳴くだけです。  また、さっきまであった筈の写真がありません。  諦めて虹色大橋を渡り、先ほどの道を戻りました。 「あれ、お嬢ちゃん」  駅員さんは驚いたようですが、すぐに微笑んで続けました。 「神様に会ったんだな」 「神様?」  駅員さんは、穏やかな笑みを浮かべています。 「こころやの店主はもう、亡くなっているんだ。でも、たまに、お嬢ちゃんのような人が、SOSを求めてくる。その時だけ、こころやは現れるんだ」  衝撃的でした。ですが、不思議な儀式や急に消えるのとは不思議に辻褄が合う気がします。 「俺は駅員じゃないんだ」  唐突に言われ、「え?」と間の抜けた声が出てしまいました。  どこからどう見ても、駅員さん……いえ。よくよく見ると、制服や帽子が一昔前のものに思われます。 「君江を見守っているんだ。君江は人見知りなのに随分お嬢ちゃんのことは気に入ったらしい」  駅員さん──いえ、君江さんの旦那様がこちらへ歩いてきました。  ミシミシと木の音は鳴りません。  そして、私の前に立つと、ポッケから何かを取り出しました。  それは写真です。さっき撮った写真で、いつのまにか消えていた写真です。 「どうぞ」 「ありがとうございます」  写真は不思議に暖かかったです。 「じゃあな」  男性は微笑むと、煙が現れました。  あっと思った瞬間、男性は消えました。  後のは、線香のような香りが漂っていました。  駅の窓口には「ここは無人駅です。切符はこちら」と書かれています。 「ありがとうございます」  小さな呟きが暖かい空気に溶けました。  写真をそっと握り、やってきた電車に乗りました。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加