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店を出て腕時計を見ると、四時から一分も動いていませんでした。ここに着いた時間と同じなのです。
不思議に思っているとゴゴゴゴと言う地響きとともに、こころやがなくなっています。
慌てて龍の頭をさすっても、ただ、カアカアと何処かでカラスが鳴くだけです。
また、さっきまであった筈の写真がありません。
諦めて虹色大橋を渡り、先ほどの道を戻りました。
「あれ、お嬢ちゃん」
駅員さんは驚いたようですが、すぐに微笑んで続けました。
「神様に会ったんだな」
「神様?」
駅員さんは、穏やかな笑みを浮かべています。
「こころやの店主はもう、亡くなっているんだ。でも、たまに、お嬢ちゃんのような人が、SOSを求めてくる。その時だけ、こころやは現れるんだ」
衝撃的でした。ですが、不思議な儀式や急に消えるのとは不思議に辻褄が合う気がします。
「俺は駅員じゃないんだ」
唐突に言われ、「え?」と間の抜けた声が出てしまいました。
どこからどう見ても、駅員さん……いえ。よくよく見ると、制服や帽子が一昔前のものに思われます。
「君江を見守っているんだ。君江は人見知りなのに随分お嬢ちゃんのことは気に入ったらしい」
駅員さん──いえ、君江さんの旦那様がこちらへ歩いてきました。
ミシミシと木の音は鳴りません。
そして、私の前に立つと、ポッケから何かを取り出しました。
それは写真です。さっき撮った写真で、いつのまにか消えていた写真です。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
写真は不思議に暖かかったです。
「じゃあな」
男性は微笑むと、煙が現れました。
あっと思った瞬間、男性は消えました。
後のは、線香のような香りが漂っていました。
駅の窓口には「ここは無人駅です。切符はこちら」と書かれています。
「ありがとうございます」
小さな呟きが暖かい空気に溶けました。
写真をそっと握り、やってきた電車に乗りました。
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