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「雪の怪物?」
「ああ。そいつは、子供みたいな大きさで、人の言葉を操って、人を誑かすんだとよ。綺麗な瞳に騙されてついていきゃあ、吹雪が強くなって、あたりが何にも見えなくなる。そうしてさまよってさまよって、力尽きて倒れたところを、そいつが戻ってきて食っちまう……」
利平は言葉を切って、じろりとわたしを見た。試すような瞳に、咄嗟に言葉が返せない。
「……そんな話さ。村の奴らは怯え切って、怪物を倒そうと必死になってる。最近、吹雪のなか出かけたっきり、帰ってこないやつが多いんだと」
「それは……この山の吹雪がきついからでしょう」
今までいろんな山を巡ってきたが、この山はとりわけ吹雪が厳しかった。積もる雪も半端ではなく、視界もすぐに白く染まってしまう。だからこそ、さまよう人が多いのだろう。
「死体」利平は木の戸に視線を投げる。「お前が死体を見つけたそばで、男の子に会ったんだろ」
「……」
木の根元の雪を掻き出すと、男の死体が出て来たのだ。
わたしはそれを引きずって、利平が待つ小屋まで戻ってきた。
男には身を剥がれた様子も、病や怪我を患った様子もなかった。
おそらく、吹雪のせいで道に迷い、そして力尽きたのだろう。
利平と一緒に、必要なものだけ剥いで、土の中に埋め、お祈りをした――他の死体と同様に。
たしかに最近、死体をよく見る。村の人々が噂話に夢中になり、怯えるのも仕方がないかもしれない。
「つむぎ」
溜息交じりに、利平が目を伏せる。
「何も見なかった。そういうことにしよう」
利平にそう言われてしまうと、強くは言い返せなかった。
「わかった。……見なかったことにする」
わたしはそう答えて、そのままごろりと寝転がった。囲炉裏から少し離れれば、木の床板はひんやりと冷えている。わたしには気持ちよく感じられるのだが、利平は寒いとよく愚痴る。
囲炉裏のそばで、利平が細々と手を動かしているのが視界の端に見えた。わたしは寝返りを打って、囲炉裏の火と利平に背中を向けた。
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