雀のお姫さま

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 月日は流れて地獄は去った。稲穂は(こうべ)を垂れて、綺麗な綺麗な黄金色。  不作の悪夢は消え去った。  消え去れないのはただひとつ。  可哀想なお姫さま。どこかの偉い人の内緒の子。  雀の化身、以津真天(いつまでてん)の化身として追い立てられて、憎まれて、殺された。  可哀想なお姫さま。一生日陰の存在だったとしても、入内雀(にゅうないすずめ)実方雀(さねかたすずめ)と忌み嫌われることはなかったはずなのに。  穢されてしまった雀姫には、流された血で黒くて赤い羽が生えた。  可哀想なお姫さまはあたしら雀の仲間になった。可哀想な雀姫。人に居場所を奪われ、憎まれて、彷徨うようになった。  飢饉の凄まじさを忘れていない人たちは、あたしら雀を敵視し続けた。いつまでいつまで以津真天。あたしらに云わせれば人の方が化け物だ。  憎まれて、追い払われて、それでもあたしら人から離れて生きていけない。  可哀想な雀姫。あたしら雀のお姫さま。  (かか)様恋し、お宿はどこじゃ。ちゅんちゅんちゅんちゅん泣き濡れる。  お姫さまの哀しみ、怨みが薄れて消えるまで、あたしらずっと傍にいるよ。  あたしら小さな体だけど、心は広い空を飛んでいる。いつまでもいつまでも、お姫さまの傍にいるよ。  哀しみに満たされた雀姫。  怨みに満たされた雀姫。  悪の化身とされたあたしら雀。  お姫さまの羽が綺麗な空の色になるまで、あたしらずっと、傍にいるよ。  ちゅんちゅんちゅん、ちゅんからちゅん────……
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