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一目惚れ
ふわ、と自分の中でなにかが吹いたような感覚がした。
それは春風のような、自分にとって好みの香りを嗅いだときのような、そういう優しさ、やわらかさを含むなにかだった。
「よろしくお願いします。」
そう言って本の少し口角を上げて微笑んだ彼女に、目が釘付けになっていた。
大学生の講義の、グループ学習。
やってられるかといつもぼんやりしていたけど、今日ばかりはぼんやりできそうにない。
しかしながら、こういう出会いもあるのかなんて、どこか客観的に考えてしまう。
「隣、いい?」
「どうぞー。」
前の席に座る彼女からは、花のような良い香りがする。
隣の男、友達だけど今すぐどっかいけ。
そんな気持ちで友達の背中を見ていたからか、自分の隣の奴から小突かれた。
前の席の彼女が美人か、と問われるとそうでもないのかもしれない。
なんなら自分の好みからすれば、かすってすらいない。
ただ、何故か目が離せないのだ。
21歳にもなって一目で落ちるとか、そんなことって。
すとん、と胸に落ちるようなものだ、なんて誰かが言ってたけど、そんな単純な感覚じゃない。
「なんだこれ。」
味わったことのない、ぽかぽかとした気持ちと、焦げるような焦り。
「……どうしたの?」
そっと後ろを振り向いて、困ったように首を傾げた彼女を見て、俺は頬が熱くなるのを感じた。
「なんでもない!」
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