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やっと逢えたのに。嬉しいはずなのに。自分の中でドロリと何かが流れた。
「あ、ツムちゃん、誰か来たよ?」
僕に気が付いて、チラシの彼が【紡木】さんの肩を叩いた。
「あっはい、こんにちは。どういったご用でしょう?」
振り向いた彼女は、あの時と変わらない、泣き袋の目立つ笑顔を僕にくれた。
でも…僕の事は、覚えていないみたい。ショックだった。
「あ、えと、これをこちらに、運ぶように言われて…どこに置いたらいいですか?」
「あ、そしたらこっちのカウンターの下に…」
彼女の誘導で、迅速に資料を運ぶ。最後の束を置いた所で、あっ!と彼女が僕を見て声を上げた。
もしかして、思い出してくれた?
「その本、返却ですか?」
「へ?
あ、あぁ、そうです、今日が最終日で」
すっかり忘れてた、本の事。ずっと手に持っていたそれを掲げる。
「よかったぁ、ずっと借りられてて、戻ってきたらすぐ借りようと思ってたんです」
そうなんだ。この本、読みたがってたんだ。
「あ、いや…借りっぱなしで俺の方こそ、なんかすいません」
「あっそんな、そんなつもりで言ったんじゃなくて…私こそごめんなさい!」
互いに平謝りしながら、僕達は返却のやりとりをした。
その様子をカウンターの向こうから静かに見ていたチラシの彼が、
「じゃあツムちゃん、またな。さっきの話よろしく。
あっ、そこの1年生くんにもよかったら説明してやって。
ねぇキミ、あの時のチラシ読んでくれた?いつでも大歓迎だからね~」
最後に僕に向けてニヤリと笑って、ゲートをくぐって外へ出ていった。
「え…けん…松堂さんの知り合いなんですか?」
「あ…いや…」
目を丸くして聞いてくる【紡木】さんに、なんて答えていいのか分からなかった。
ただとにかく、覚えてくれていたのが【紡木】さんじゃなくあの人だったって事に、妙な腹立ちを感じた。
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