(2) シャッキリ働いて、ガッポリ稼ぎな

8/8
前へ
/97ページ
次へ
「ええと…入学したての頃に、ビラ配ってたのを貰いました。 あんなちょっとの時間だったのに、よく覚えているなぁ… 松堂さん…っていうんですか?」 遠ざかっていく彼の背中を見つめながら僕が言うと、 「そうです。松堂(まつどう)剣佑(けんすけ)さん。登山サークルの部長です」 【紡木】さんはパッと顔を明るくして言った。まさか、もしかして?また、黒いものが渦巻く。 「あの、じゃあ、失礼します…」 「あっ、ちょっと待って!」 バックヤードへ引っ込もうとしたら、彼女に大きな声で呼び止められて驚いた。 彼女も言った後でハッと口を押さえて、それから…僕にそっと近づいて、小声で話した。 「あの…サークル、興味ありますか?」 「へ」 「登山サークル。登山といってもね、まあ、松堂さんみたいにロッククライミングする事も…これは一部の人だけだけど。 普段は週1で集まって、月1で出掛けたりするんですよ。近くの山へハイキングしたり、飲みに行ったり。 それでね、次の週末に飲み会があるんです。よかったら…来て下さい。 あっ、もちろんサークルに入れというワケではなく…見学がてら。気に入ってくれたら嬉しいけど」 一生懸命に話す【紡木】さんをじっと見つめる。やっぱり可愛い。 「そうなんですか…じゃあ…行ってみようかな」 「わあ、ありがとうございます!じゃあその飲み会の詳細を…今書くので…」 そう言って、【紡木】さんはカウンターの下からフリップボードとルーズリーフを取り出して、スマホを見ながら飲み会の会場の事を書いた。最後に、 【松堂剣佑】 【紡木奈津】 と署名した。 「つむぎ…なつ、さん?」 「はい。サークルの皆にはツムちゃんって言われます」 「はは、そういやさっきも、松堂さん呼んでましたね。 あ、俺、()()(のぶ)()っていいます」 「コバノブキくん。ふふ。分かりました。じゃあ週末、会場で待ってますね」 紡木さんが書いてくれた紙を受け取り、僕は図書館を出た。 結局、紡木さんは僕を思い出してはくれなかったけど、今日で確実に知り合いになれたんだから、それでよし、いやそれ以上の収穫を僕は得たんだ。黒いものはとっくにどっかに飛んでった。 全ての運搬が終わって図書センターに戻ると神保さんがいて、僕を見るなり、 「あら木庭くん、何かいいことあった?ニタニタしてる(笑)」 と突っ込んだ。 …
/97ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加