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「あっ、あの…紡木さん」
そうだ、バイトを紹介してくれた事へのお礼。今日こそ言うんだと意気込んでいたのに、
「おーいツムちゃん」
はじめから上座から動かない松堂さんに呼ばれて、紡木さんは行ってしまった。
また、言えなかった…
「け…松堂さん、あのね、ノブくんが…」
僕の事を報告しているのだろう、顔を寄せて二人が話す、それを僕は見ていられなかった。
お皿にわずかに残っている料理をかき集めて黙々と食べていると、個室の襖がすっと開いて「そろそろお時間になりますが…」と店員さんが言った。
「ハイハイ皆さん!宴もたけなわですが、お開きの時間となりましたので…
また次回の事は、掲示板に載っけとくから。
じゃ、解散~。気をつけて帰れよ~」
松堂さんの号令で、僕達は素早く身支度をして、ぞろぞろと外へ出た。
「二次会やる?この後行けるヤツは?」と先輩達が店先で談話する。
僕はこのまま真っ直ぐ家に帰るので、帰宅組と固まっていた。
そこへ、会計を済ませた松堂さんと紡木さんが一緒に出てきて、
「部長!二次会の話出てるけど、参加する?」
とメンバーの一人に聞かれた松堂さんは、
「おー行く行く。
でもその前にツムちゃん送ってく。
場所決まったら、後で俺にも連絡して」
と言い残して、紡木さんと肩を並べて歩いていった。駅とは逆方向へ。
「ツムちゃん、寮暮らしなんだよね。門限に間に合うかなぁ」
「大丈夫なんじゃない?部長が一緒だし、事情を説明すれば…」
先輩達が話すのを聞いて、やっぱりあの二人は付き合ってるんだ、淡い期待を持つべきじゃなかったんだ…
「じゃあ僕達はここで。お疲れさまでしたぁ」
帰宅組が二次会組にそう声を掛けて、はっとなって慌てて一緒に頭を下げた。
…
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