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「あっそうだノブくん、ここで会えて良かったよ。
け…松堂さんに、ノブくんにサークル掲示板の説明してないだろって言われてて。
あのね、このアプリってやってる?この中で私達の掲示板置かせて貰ってて…」
あ、また。紡木さんの言い直し。
モヤモヤしながらも、紡木さんが一生懸命説明してくれるのを聞いた。
そしてひと通り終わって、「分からないことがあれば何でも聞いて」と紡木さんが言ったタイミングで、
「あのー、紡木さん。ずっと気になってて…不躾な質問しちゃうんだけど…
紡木さんと松堂さん、付き合ってるの?」
勇気を出して、聞いてみた。
「えっ!
ちょっ、ちがうちがうちがうから。
何でそんな話になるかな、そんなんじゃないんだよぉ、ほんと」
顔を真っ赤にして全力否定をする紡木さん。
「だって…すごく仲良く見えるよ。
呼ぶ時もなんか、いちいち苗字に言い直してるし」
少しわざとらしく怪訝な眼差しを向けると、紡木さんはますます慌てふためいた。
「あっそれはね…あのね。実はね。
松堂さんと私、実家がご近所さんで。小さい頃よく遊んで貰っていて、剣ちゃんって呼んでたの。
中高は全然会わなくなっちゃって…大学に入って、偶然再会したの。
昔と同じに呼んだら、大学ではそれはやめてくれって怒られちゃって。
でも昔のがすっかり馴染んじゃってるから…いつも、言い直しちゃうのですよ」
そこまで言い切った後、紡木さんはえへへと照れ笑いをした。
なるほど、訳は分かったけど、まだモヤモヤが残るのは…松堂さんを話題に出した時の、紡木さんの笑顔のせいだと思った。
「そうなんだ。
…あ、もうこんな時間。早く戻らないと神保さんが心配する。
じゃあ紡木さん、またね」
早口でそう言って、バックヤードに向かおうとした時に、
「あっうん、ごめんね、忙しいのに足を止めさせて。またね。サークルでもここでのやりとりでも、これからもよろしくね」
紡木さんが僕の背中に向かってそう言った。
肩越しに視線を送ると、紡木さんは笑顔をくれた。
あれは、僕だけのものだよね?
これからは紡木さんと接触する機会が増えるんだから、それをよしとしなくっちゃ。
たとえ…松堂さんの存在が紡木さんを揺るがしているのだとしても。
僕は…紡木さんといれる時間を、空間を、大事にしたい。
そんな事を漠然と思った。
ーーー思えばここが、始まりだったんだ。
…
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