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「本当かよ…」
由衣が売り子を始めてから、ものの2時間。
本日の在庫はあれよあれよと売れて、まさかの引き上げ予定時刻の時点で売り切れ御免となったのだ。
戦兎が驚くのも無理はなかった。
「もう由衣に売り子やってもらう方がいいんじゃね?」
「黙れ筋肉バカ!」
「あははははは!」
益体のないやり取りを見て快活に笑う由衣。かつて、初めて会った頃の暗く鋭い表情は微塵もなかった。
俺達が…俺が守らなきゃな…。
そう改めて決心し、戦兎をチラッと見てから由衣に視線を移す。
「おい顔にやけてんぞバカ」
「馬鹿って言うなよ!せめて筋肉つけろよ!」
「…まぁいいや、美空んとこにコーヒー飲みに行くぞ」
せっせと片付け、既に帰り支度を始めた戦兎はスタスタと歩き出す。
「おい待てよ!」
「あたしも行くー!」
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噴水が目立つ広場の一角にテラス席がいくつかあり、それを前にして移動式の店舗がある。
俺達の仲間、石動 美空が経営する移動式カフェ“piccolo nacita《ピッコロナシタ》”だ。
「あ、戦兎!万丈!由衣さんも来てくれたんだー!ありがとう!」
にこやかな笑顔で迎えてくれた美空。
見れば、テラス席もそれなりに埋まっている。今は注文を全て捌いたようで、店主はコーヒー豆をひいていた。
なかなかに盛況なようだ。
「コーヒー3つで頼む」
「はーい!美味しいの淹れるねー」
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