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「最近、河上変わったよな」
「そうっすか?」
山本の呟きに、中田が疑問を呈する。
「俺にはよくわかんないっすけど。ああ、そういえば、お前もちょっと前、そんなこと言ってなかったっけ?」
「…何でしたっけ?」
突然話を振られた舞花は、当然忘れたふり、知らない振りをしてみせる。
だが、そんな小細工が山本相手に通じるわけはないのだ。
いい材料を見つけたとばかりに、彼はにんまりと笑った。
「へぇ。どの辺をそう思ったの?」
「いや、だから、私言ってないですってば」
焦る舞花に、彼はぐいっと身を寄せてくる。
思わず後ずさりしたけれど、すぐ後ろはもう壁だった。
「見た目が変わった?それとも中身?」
「ええっと、多分、中田さんが言ってるのって、結構前のことですよね?あの時、上のフロアで河上さんとお話しするのが初めてだったので、いつもとちょっと違うんだなって思っただけですよ」
「佐藤さんが来たときって、あれか。お前達が付き合ってるって、噂話がうるさくなったときだな」
そういえば、一華もそんなことを言ってたっけ。
あの時、山本マネージャーが席にいたかどうかなんて、全く舞花の記憶にはないけれど。
中田は、山本の言葉にあからさまに不機嫌になった。
「その噂、ほんとに迷惑なんですけど」
彼の言い分に、舞花は思わず眉をひそめる。
どの口が言う? こっちだって迷惑だ。
「何で俺が佐藤なんかと? あり得なくないっすか?」
「その言い方は、佐藤さんに大変失礼かと思うけど」
本当にその通り。
山本の言葉に同意したくなったのは、初めてだ。
山本は何か考えている風に顎に手を当てると、まるで今思いついたかのように
こう言った。
「でもまぁ、佐藤さんには素敵な彼がいらっしゃるからね。誤解されても困るでしょう」
「え!?お前、彼氏できたの?」
中田の大声のせいで、今度はこっちが注目を集めるはめになった。
「出来てないから」
「でも、ほら。パーティーの二次会前にお話ししてたよね?」
「あれは、元彼です。もうとっくに別れてますから」
「ふうん。じゃ、今は?」
「…いませんけど?」
「そっか。なら、中田でもいいか」
「「良くないから」」
舞花と中田の声が綺麗に混ざる。
これじゃ、漫才じゃないか。
山本にいいように転がされている気がして、舞花はさらに不愉快になってきた。
舞花は気を取り直すと、もう一度頑張って笑顔を貼り付ける。
「とにかく、私は面白みの無い人間なので。せっかくだし、もっと楽しい方とお話しされたらいかがですか?」
「俺にはすごく面白い子に見えるけどね。特に、化粧品にこだわらないあたりが」
山本があえて口にしたであろう単語に、舞花は思わず息をのんだ。
この人、何が言いたいんだろう?
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