最悪の日①

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「お待たせしましたー。んじゃ、カンパーイ」 村田の威勢の良い声でスタートした飲み会だったが、舞花は速攻で帰宅したくなった。 なぜなら、席順が最悪だったからだ。 一番端なのはいい。が、どうして隣が山本? 立場的にも上座に座るべきだというのに、彼はどうしてもここがいいと譲らなかったのである。 しかも健司は一番遠くで、その両隣には女性が陣取っている。 これでテンションを上げろというのは、酷な話だ。 「さ、佐藤さん。じっくり、飲んで、語り合おうか」 山本は含みたっぷりにそう言いながら、舞花のグラスにビールを注いでいく。 舞花は仕方なく礼を言うと、グビッとそれを飲み干した。 「あらら。そんな飲み方したら危険だよ。帰れなくなったらどうするの?」 「大丈夫です。そうなったら、横田さんにどうにかしてもらうので」 にっこりと作り笑顔を貼り付けて、舞花は彼の言葉をさらりとかわす。 彼はそれを勝負とでも受けて立ったのか、ニヤリと笑った。 「明日は、二人とも休みで良かったね。何か予定はあるの?」 「私は特に。部屋の掃除でもしようかなと」 「へぇ。広い部屋は大変だよね」 「たしかにそうですよね。うちはめっちゃ狭いんで、すぐ終わっちゃいますけど。山本さんのおうちはどうなんですか?」 「俺は一人暮らしだから普通の1Kだよ。もし4LDKなんかに住んでたら、掃除するのも大変だろうな」 「ですよねぇ」 舞花はそう言って、愛想笑いを振りまいた。 ああ、イライラする。 この微妙な攻防は、誰に何の得があるんだ? 舞花がそんなことを思っているのを知ってか知らずか、彼からの攻撃は止まない。 「そう言えばさ、車とか好きだったりする?」 「特に興味ないですね。出掛けるのは、電車ですし」 「そっかぁ。黒のスポーツカーとかいいと思わない?」 山本がそう言った時、たまたま近くに来ていた中田が食いついてきた。 「あ、山本さん。河上さんの車、知ってるんですか?」 「もちろん。なんてったって、一緒に試乗行ったからな」 「マジかぁ。やっぱ、いいやつなんですか?」 「乗り心地いいよ。今度乗せてもらえよ」 「ですね。河上さーん!今度、車乗せて-!」 中田は、遠くにいる健司に向かって大声でそう声をかけた。 皆が彼に注目し、ざわめきが怒る。 当然、両隣の女性達も反応を見せた。 「ええ。いいなぁ。私も乗りたぁい」 「今度、乗せてくださぁい」 しなだれかかる彼女たちを少しだけ押し返しながら、健司は適当に頷いている。 それを見るなり、舞花の心に黒い塊がドスンと落ちた。 いや。そこ、否定して? ていうか、彼女いるって言えば? そんな刺々しい言葉を、頭の中だけで、健司に投げつける。
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