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「お待たせしましたー。んじゃ、カンパーイ」
村田の威勢の良い声でスタートした飲み会だったが、舞花は速攻で帰宅したくなった。
なぜなら、席順が最悪だったからだ。
一番端なのはいい。が、どうして隣が山本?
立場的にも上座に座るべきだというのに、彼はどうしてもここがいいと譲らなかったのである。
しかも健司は一番遠くで、その両隣には女性が陣取っている。
これでテンションを上げろというのは、酷な話だ。
「さ、佐藤さん。じっくり、飲んで、語り合おうか」
山本は含みたっぷりにそう言いながら、舞花のグラスにビールを注いでいく。
舞花は仕方なく礼を言うと、グビッとそれを飲み干した。
「あらら。そんな飲み方したら危険だよ。帰れなくなったらどうするの?」
「大丈夫です。そうなったら、横田さんにどうにかしてもらうので」
にっこりと作り笑顔を貼り付けて、舞花は彼の言葉をさらりとかわす。
彼はそれを勝負とでも受けて立ったのか、ニヤリと笑った。
「明日は、二人とも休みで良かったね。何か予定はあるの?」
「私は特に。部屋の掃除でもしようかなと」
「へぇ。広い部屋は大変だよね」
「たしかにそうですよね。うちはめっちゃ狭いんで、すぐ終わっちゃいますけど。山本さんのおうちはどうなんですか?」
「俺は一人暮らしだから普通の1Kだよ。もし4LDKなんかに住んでたら、掃除するのも大変だろうな」
「ですよねぇ」
舞花はそう言って、愛想笑いを振りまいた。
ああ、イライラする。
この微妙な攻防は、誰に何の得があるんだ?
舞花がそんなことを思っているのを知ってか知らずか、彼からの攻撃は止まない。
「そう言えばさ、車とか好きだったりする?」
「特に興味ないですね。出掛けるのは、電車ですし」
「そっかぁ。黒のスポーツカーとかいいと思わない?」
山本がそう言った時、たまたま近くに来ていた中田が食いついてきた。
「あ、山本さん。河上さんの車、知ってるんですか?」
「もちろん。なんてったって、一緒に試乗行ったからな」
「マジかぁ。やっぱ、いいやつなんですか?」
「乗り心地いいよ。今度乗せてもらえよ」
「ですね。河上さーん!今度、車乗せて-!」
中田は、遠くにいる健司に向かって大声でそう声をかけた。
皆が彼に注目し、ざわめきが怒る。
当然、両隣の女性達も反応を見せた。
「ええ。いいなぁ。私も乗りたぁい」
「今度、乗せてくださぁい」
しなだれかかる彼女たちを少しだけ押し返しながら、健司は適当に頷いている。
それを見るなり、舞花の心に黒い塊がドスンと落ちた。
いや。そこ、否定して?
ていうか、彼女いるって言えば?
そんな刺々しい言葉を、頭の中だけで、健司に投げつける。
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