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由伸は工業高校を出てから独り立ちして正社員として或る町工場で働くようになって4年が経った。
地道に地道にこつこつとがモットーのように只管真面目に働いて昇給を勝ち取って来た。
と言っても所詮、プロレタリアートのことだから微々たるものだ。
で、少しでも貯蓄しようと平日の晩は専ら自分が住まう借家か彼女の恵美が住まうアパートで過ごして成るべく浪費しないようにしている。
師走の或る月曜日の仕事帰りも由伸は真っ直ぐ帰宅した。
古ぼけていて狭苦しい、それが彼の住まいだった。
その借家前に恵美の車がいつもの時間通り停まったのを見て由伸は例によって気分が浮き立った。
「ブー!」
呼び出しブザーが鳴った。
今時インターフォンすら備えていない時代遅れの陋屋なのだ。
だから、「はーい!」と由伸は大きな声で言いながら居間から玄関に移り、勢いがらりと引き戸を開けた。
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