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明くる朝、目を覚ました由紀乃は寒さに震えて布団を掻き抱こうとするが、どうしてか手足が思うように動かない。
僅かに動かす事の出来た目蓋をぱちぱちとまばたきして、視界に飛び込んできた光景にあんぐりと口を開け……られない。
口、くち、口が動かない!それよりも──と由紀乃は目の前に広がる一面の雪景色に唖然とし、頭が考える事を拒否して、真っ白になった。
理解が追い付かない。
手も足も身体も思うように動かない。そして口も開かない。
何が起きているのか理解出来ない由紀乃の後ろでガチャと音がした。それは聞き慣れた玄関扉の開く音である。
首さえ動かせない由紀乃は玄関の方へ意識を傾けた。
さく、さく、と雪を踏み締める足音。それがだんだんと由紀乃に近付いてくる。そして、とうとう由紀乃の横で音が止まった。
「おはよう、ゆきのちゃん。寒かった?」
誰の声か分かって由紀乃は慄いた。
また、さく、さく、と音を鳴らして、それは由紀乃の前に立つと、ゆっくりとしゃがんで視線を合わせた。
私だ──と由紀乃は思う。
由紀乃の目の前に由紀乃がいる。
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