第四話 マジで異世界!? じゃぁ、もしかしてチート能力とか手に入る?

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第四話 マジで異世界!? じゃぁ、もしかしてチート能力とか手に入る?

 そして眼鏡野郎は、キッと俺を睨みつけやがった! 何だよ? いきなり物質界と幽世(かくりよ)の中間に位置する場所です、なんて言われて「はいそうですか」なんてなる訳ねーだろ! つーの。なんかコイツムカつく! 「聞こえませんでしたか? ここは……」 「あ! はいはい、すみませんでした。物質界と幽世の中間にある世界なんですね? 唐突過ぎてなかなか思考がついていかなくて……」  俺は愛想笑いを浮かべながら下手に出る事にした。恐らくこの手のタイプはやたらプライドが高い。しかも元々の能力が高く生まれ付いた上に努力に努力を重ねたタイプだ。チャラチャラした奴には嫌悪感を覚える筈だ。コイツを敵に回したらここではやっていけないと見た。  眼鏡野郎は再び眼鏡のエッジに右手人差し指を添えて眼鏡を少し動かした。これ、コイツの癖なんじゃないかな。心を落ち着かせたり、気持ちを切り変える時に無意識にやる……。 「ま、無理もないでしょう」  ほら、少し表情を和らげた。やっぱりな。少し質問してみよう。それで、コイツとの距離感の間合いをはかっていけば良い。執事、ていうくらいなんだから王子だけでなく、この城(?)全ての事を分かっている奴だと思うから。 「あの、ここは異世界って事で解釈をして大丈夫でしょうか?」 「あなたから見たらそうなるでしょうね」 「じゃぁ、俺……自分は死んでしまったんでしょうか?」  それ、やっぱり一番気になるよな。初めて飲んだ酒に呑まれて急性アコール中毒でお亡くなり……ごめん、父ちゃん母ちゃん、やっぱり出来損ないの長男だった…… 「さぁ……それは分かりかねますね。人それぞれのケースによって異なりますから」 「て事は、死んで転生する場合と、肉体ごとここに転移する場合とある、という事でしょうか?」 「その場合もありますし、死んでからあちこち彷徨った挙句にここに来る場合もあれば亡くなってすぐに転生の場合もあります。あなたが言うように肉体ごと転移する場合もありますし。元からここに生まれて来る者も居ます。その場合、物質界……あなた方のいう人間界でクリアすべき課題をあと一歩で終えた、という者がここに生まれて来ます。そういう者は生まれながらにしてこの世界の仕組みがある程度分かって生まれて来ます。例をあげれば、エターナル王家一族の者は最初からここに生まれて来たタイプです。かくいう私もその一人」  なるほど、人生でクリアすべき課題か、カルマとかいう奴かな。じゃぁ、もしかしてもしかしたら……話題のチートな力も……手に入ったり? 「では、自分の場合は……」  眼鏡野郎は途端に冷たい表情に戻った。コイツ、整い過ぎるほど整った顔立ちしてるから人形みたいに無機質な感じがしてちょいとホラーな印象なんだよなぁ。 「あなたの場合、まだ何の為にここに来たのか。転生なのか転移なのか分かり兼ねます。たまたま何かの拍子に儀偶然来たのかもしれないし、人間界での課題をあと一歩でクリアと言うところで亡くなったのかもしれない。因みに課題を全てクリアして亡くなると幽世や極楽と呼ばれる浄土の一つに転生、または再び人間に生まれるか閻魔の前で選択権が与えられます。あなたの場合、どうしてここに来たのか調べさせて頂きますよ。殿下は偉くあなたの事を気に入っておられますが、素性の知れないものを殿下に近づける訳には参りません。まして私の後継者など言語道断です!」  話が後半になるにつれ、汚らわしいものでも見るような目付きで俺を見つめやがる。なんだかなー。これって不当な差別、偏見じゃねーの? なんて言え無いけどさ。もしかして課題があと一歩、てとこで死んでここに転生! だったら、『むささびの五能』状態から抜け出せるんじゃねーか、て期待してるんだよな。ラノベでよくあるように、『チート能力』なんかも手に入れてさぁ。  でも、俺ごとここに転移、だと何も変わらない訳で。いや、それどころかここ、ハイスペックな奴らばかりで俺なんか最下位クラスなんじゃねーの? 「あ、はい。そうですね。それは勿論。それで、自分の素性が分かったら是非教えて頂けませんか? 転生なのか転移なのか、まずはそれが一番知りたいんです」  眼鏡野郎は意外だというように目を見開く。完全にポーカーフェイス、て訳じゃなさそうだな。ほら、また眼鏡のエッジに右手人差し指、と。 「そうですね、他ならぬあなた自身の事ですから。知る権利はある。調べている間に体調が回復するでしょうから。調べた末、問題がなければまずはこの世界の仕組み、エターナル王家の事から学び、同時に最下位の召使の仕事から覚えて頂きます。それから徐々に、王子の身の周りの世話をする者一人一人について見習いをして頂きます」  なんだかまだまだ突っ込みどころ満載なんだけど。例えば言語だよ。何で通じてるのか、とか。男しか居ない世界なのか、とかさ。これ、小説なら真っ先に突っ込まれるところだよなぁ。設定ガバガバやんか。まぁ、これから徐々に判明していくんだろうけどさ。え? 眼鏡野郎、いきなり俺を睨みつけやがった?! 「それと、一言忠告しておきましょう。殿下の寵愛を巡っては、各担当者が熾烈な争いを繰り広げています。あなたの場合、何故か殿下が一目で気に入って殿下自らが専属侍従に指名した。つまり、数多くいる担当の侍従を退けるという意味ですよ? ゆくゆくは私の座を譲るよう言われています。……これが、何を意味するか分かりますね? せいぜい、泣いて脱落して無様な姿を殿下に晒さぬようお気をつけください」 「……え?」  なんだよ、それって……。俺の為に他の従者たちがクビになる、て事? まさか! それはねーだろさすがに。 「申し遅れました。私の名はLiam《リアン》。『動揺しない守護者』、という意味があります。体が回復したら容赦はいたしませんよ、心してかかるように。もっとも……調査の段階で問題ありなら、速攻出て行って頂きますけどね。では!」  眼鏡野郎、リアンとやらは一方的に捲し立てるとスタスタと去ってしまった。ちょっと待て。全く思考が追いつかねー。 ……えーと、つまり、調査の結果次第で俺はつまみ出される。ここに居られたとしても、王子の寵愛を巡って虐め抜かれる。つまり……何だ? 俺、もしかして元の世界のが気楽な分まだ良かったんじゃねーの? ハイスペックだらけの奴らがいる異世界で、『むささびの五能』な俺がどうやって太刀打ちできるんだよーーーーーっ!!!
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