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旅立ち
人里離れた山の奥深く、人間が入ったことのない奥の方で、更に奥。手付かずの美しい山々が聳え立ち、光り輝く自然が満ち溢れている。
そこには、野生の動物達がひっそりと息づいていた。
ある洞窟に、病に臥せった古狸がいた。迫り来る我が命の期限に、弟子の今後を考え、天井をじっと見上げていた。
耳に鳥のさえずりが、聞こえる。
『狸師匠が、寿命を迎える…… 』
『あの弟子はどうなるのかしら? 』
鳥たちの会話を耳にした古狸が、弟子を呼ぶ合図を送った。体の自由が利かなくなっている。
サッと、アライグマが入って来た。
師匠の古狸を心配して、憔悴しきった弟子のアライグマ。
「師匠、お呼びでしょうか…… 」
横たわっていた師匠が、体を半分起こすのを見て、アライグマが慌てて師匠の体を支える。
「師匠、お体の加減はいかがですか?ご無理なさらないでください……」
アライグマが、心配で心細くて今にも泣き出しそうになりながら師匠の古狸を見つめる。
「アライグマ、良く聞くのだ。ワシはもう長くない。ウッフォ、ゲホゴホ…… 」
アライグマが師匠の背中を擦る。
「師匠…… やですよ。おいらを一人にしないでください 」
アライグマは、我慢できずに涙が溢れ出た。
「…… アライグマ。泣く奴があるか。ゴホッ、ゲホ、ゴホ。…… 大事な事を話すからよく聞くのだぞ。ゲホン、お前は、本来この山に住む獣ではない。ウッフォッコホ、ゴッフォ…… ハァハァ…… お前はここを離れて、人里へ向かうのだぞ、わかったな?」
アライグマは、涙を拭うと、
「そんな…… おいらは、師匠の側にずっといます!」
師匠が苦しそうな顔をして呼吸をしている。
アライグマは、なす術もなく師匠を見ていたがゆっくりと目を閉じた師匠を布団にそっと横たえた。
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