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第四話 文化祭初日
今日は文化祭の初日。
天気予報通り昨日の雨が嘘のように快晴に恵まれて文化祭日和になった。
ウチのクラスの出し物はベルジャンワッフル屋だ。
そうは言っても本当に焼く機材を持ち込んで提供するわけじゃなくて、市販の焼き上げてあるワッフルにホイップクリームとフルーツソースをトッピングするだけもの。
はっきり言って手抜きである。
ウチのクラスは、まだましな方で酷い所はジューススタンドと言って1.5Lペットボトルから小さい紙コップにジュースを注ぐだけで一杯100円もするんだよ。
ぼったくりだよ!!
大体、二年生の出店はこんな感じで似たり寄ったりだ。
こんな手抜きな出店にはわけがある。
二年生には後夜祭に特別なゲームが待っているから手早く片づけられるように配慮がされているんだ。
そのゲームとは「クラウンゲーム」
その名の通り、校内に隠された王冠を見つけ出すゲーム。
王冠を手にした者が、王様になり3つの願いをかなえることが出来るんだ。
このゲームは我が高等学校のお祭りをとことん楽しもうと言う創立からの伝統になっていて143年もの間続いている。
参加資格は2年生のみ。
ルールは簡単。
前年度の王様が学校内のどこかに隠した王冠を探し出してゴールすると王様になれる。
ゴール手前で王冠を奪ってゴールしたとしても王様になれる。
横取りOKなんだ。
ただ王冠がどこに隠されているか分からないので、みんな必死に探しまくる。
去年はフェンス越しに見ていたけど、校庭や花壇を掘り起こす男子が凄い、クラウンゲームの後は大きな穴があちこちに空いて2~3日は体育の授業は中止になってた。
先生方は毎年のことで諦めているらしく、噂では願い事の予算とは別に整地用の予算が組まれているらしい。
王様は学校側に何かを買ってもらうのは当たり前だが、人に命令することも出来る。
以前、先生に「大学の推薦を書いて下さい」と頼んだ王様がいたけど、推薦に見合う人物じゃないため、クラウンゲームで推薦状を書かされたと先生から大学側に連絡が行ってその先輩は落ちたっていう噂を聞いている。
常識と予算の範囲で願い事を言うのが確実に叶えられる秘訣らしい。
そのクラウンゲームは明日だ。
「体力を温存して王冠を取りに行くぞっ!!」
「おーーーーーーーーーーーっ!!」
……とクラス委員長がみんなの士気を高めるために円陣組んで声をあげた。
どうせべルジャンワッフル屋は暇で客は来ないだろうと、楽をするためにクラスの全員一致で決まった出し物だった。
だって冷えきってるパサパサのワッフルだからね。
なのに……
なんで……?
予想に反して滅茶苦茶忙しいんですけどっっ!!
俺達のベルジャンワッフル屋に並んでいる列は途切れず、恐ろしい勢いで飛ぶように売れまくっている。
男三人で店を切り盛りしているけど、目の回るほどの忙しさで猫の手も借りたい……っていうか店番これじゃ、少なすぎるよっ!!
部活しているクラスメイトは、クラブ活動の所の分の店番があるから 一時間で交代、でも俺達三人は帰宅部だから二時間店番をやらなくちゃいけない。
俺は会計係兼、ワッフルを提供しているから、キッチンとの往復で座ることさえ出来ない。
それは後ろにいる鈴木と佐藤の二人も同様で、立ちっぱなしでワッフルの上に生クリームとフルーツソースをトッピングしまくっている。
三人とも足が痛くて限界を超えていた。
時計を見ると交代時間は四十分も過ぎている………なんで交代要員が一人も来ないんだよ!!
修斗のバスケ部はもう終わっているはず、ここで待ち合わせて一緒にご飯を食べようと約束していたのに。
この分じゃ、お昼は修斗一人で行ってもらうしかない。
修斗はバスケ部の出し物と クラスの出し物の両方だから忙しい合間をぬって来てくれるのに。
修斗と出店巡って、おしゃべりしながら楽しく買い食いしたかったな……
「あれ?岩崎君、休憩しないの?」
カウンター越しに声をかけてきたのは同じクラスの女子の田中七海。
シフト表を見ると彼女の当番は二時間も先だ。
「交代要員がまだ来ないんだよ。」
「まあ、大変!変わってあげようか?お昼まだなんでしょ?」
優しい言葉に、彼女が天使に見える。
だけど、ここには最低でも3人必要で、鈴木と佐藤を置いて俺一人だけ抜けるわけにはいかない。
「いいよ。悪いから。」
「もちろん、タダじゃないわよ。修斗君の………ね?言わなくても解るでしょ?教えてくれるならなんだってしてあげるわよ?」
………前言撤回、人の弱みに付け込む嫌な奴だ。
もー、一気に脱力した。
文化祭中だよ。
そのセリフ……今日一日くらい聞きたくなかったな。
「俺に聞くよりさ。クラウンゲームで王様になって本人に聞けばいいじゃん。」
女の子は、かなり頑張らないと王様になれないゲームけどね。
「やだ、か弱い女の子に戦えって言うの!!??酷い!信じられないわ!!」
か弱いかどうかは知らないけど、去年見ている限りゴール地点は協力者と力技が必要だな。
最後はゴール前で王冠の奪い合いだもんね。
「前にも言ってるはずだよ。教えられないって お客さんいるから後にして。何にしますか~?」
俺は田中七海の後ろに並んでいるお客さんに愛想良く注文をうかがった。
「えっ、いいんですか?えっと、マンゴーソース1つと、ストロベリー……」
「ふーん。じゃあ、ずっと交代要員来なくてもいいのね?」
田中七海は興味なさそうにメニューを眺めながら、俺だけにしか聞こえない声で言ってきた。
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