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第十話 王様の命令は?
一人パニックになって訳が分からないうちに、俺は朝礼台に立たされていた。
ニコニコ顔の生徒会長が俺の周りで色々と世話してくれている。
「はーい♪これ着て~♪これ被って~♪……ぷっ!くくっ!! うん、いいね!似合うよ!!」
楽しそうな生徒会長に赤いローブを羽織らされ、頭に不恰好な王冠を載せられた俺はどう見ても熔けたオブジェを頭に載せている出来そこないのスーパーマンにしか見えないよ。
メチャクチャ恥ずかしいっ!!
絶対、小学生が学芸会で作った物の方がもう少しマシな形をしていると思う。
王冠はアシンメトリーで不安定な形をしているから、ずるずると ずり落ちてきて気になって仕方ない。
王冠を左手で掴んで頭の上に載せなおすが……すぐまた落ちてくる。
生徒会長は笑いをこらえながら小さく言った。
「ごめんね。そのまま手で押さえてて」
黙って頷くとまた王冠がずり落ちてくる。
生徒会長は笑いながら有難うと言って下に降りて行った。
遮っていた視界が開けて朝礼台の上から見渡すと全校生徒の視線が俺に集中していた。
王冠や衣装の恥ずかしさなんか吹っ飛んでしまい、今のおかれている状況を認識したら、心臓がどきどきと速く鳴り、頭ん中ぐるぐると大パニック状態になった。
本当に、俺が王様なの???
本当に??
夢じゃなくて???
みんなの視線が怖い!!!
足元がガクガクと震えてきた。
「それでは王様、3つの命令が出せます。まずは1つ目の命令をどうぞ。」
副生徒会長が話していたマイクを俺に向ける。
マイクを前にして俺の頭は真っ白……
「命令?!あっ、あの、えっと」
キョドって視線を巡らすと修斗の姿が目に入った。
<もし俺が当たったら何をお願いしようかな?
俺なら絶対「修斗の恋人になりたい」だよな。>
「修斗の……」
はっ!
修斗に見とれて つい思い浮かべていた通りに願い事を言い始めてしまった。
「辻 修斗くんに命令だそうですよ。」
会場がざわつく
やばいっっ!!どうしようっ!!
修斗は生徒会長の手招きで朝礼台の下まで歩いてくる。
「あ…あの…」
どうしよう どうしよう
心臓がバクバクと音を立てている。
だけど
王様の命令は絶対なんだ。
言えば、叶うんだ。
王様の命令は絶対。
本人が嫌でもその日一日だけは恋人になれる。
でも その次の日はどうなる?
もし俺の事、気持ち悪いとか言われたら………正直、怖い。
ごくりと喉が鳴った。
「あの……明日、一緒に映画行って下さい。」
会場がおおおーーっ!!と歓声が上がった。
すぐに横で待機していた生徒会長がマイクを向けると修斗は能面のような顔をしている。
生徒会長からマイクを受け取ると修斗は呆れたように口を開いた。
「ナギ……あのな、それ先週から約束してあったことだろ。決定事項をあえて命令するな。」
場内一同、どたっ!!とコケる。
いち早く立ち上がった生徒会長が俺に抗議した。
「それは無効でしょ!約束してるのに命令するなんて意味ないじゃん。王様、命令がないの?」
「ああああああ、あ、あります!! 」
言いたいよ。
叶えたいよ。
叶えたいけど………
この命令は絶対言っちゃいけないんだ。
あ、いい命令を思いついたぞ!!
「じゃあ修斗、映画館でポップコーン奢って!」
「だあああああああぁぁぁぁぁっ!!」
再びコケた校庭内のみんなは半分怒りかけていた。
自分でもわかっている。
何でも叶う命令をたった500円のポップコーンに使うなんて勿体無いってと思うよ。でも、でもさ………
「なんでも命令できるのになんて欲がないんだ。」
「アホなのかこいつ」
「そんなどうでもいい命令なら俺にくれよっ!!」
参加者や観客からは様々なヤジが飛んでくる。
「あ、あ、あのっ!!キャラメルポップコーンじゃなくちゃ絶対嫌だ!!」
「わかってるって映画館ではそれしか食わないだろ。お前は」
「うん」
ブーブーとみんなのブーイングが聞こえてくる。
副生徒会長が騒ぐみんなを鎮めた。
「みんな静かに!2つ目の命令は?」
「2つ目…」
どうしよう。
本当になにも思いつかない。
頭の中にあるのはあの命令だけ……
それならいっそのこと修斗にあげちゃうか?
いつもお世話になっているとか、これからもお世話になるお礼とか何とか言って…………
修斗も王様になりたかったはず……。
あれ?
なんか頭の隅に引っかかる。
<「あっ、これ!俺のとこう………」>
あの時の修斗の言葉………あの時は気が付かなかったけど、あれ
『あ、これ!俺のと交換してくれ!』
って言いかけたんじゃないのか?
だとしたら修斗アタリを知っていた。
なんで?
どうして?
修斗はズルをしたのか??
違う!そんなことするような奴じゃない!!
……だけど……
「王様?おーい?王様、大丈夫かな?」
朝礼台の下から生徒会長に声をかけられ我に返った。
「…………2番目の命令は個人的に命令したいです。副会長…」
急にテンションが下がった俺を不審に思ったのか、副会長が優しく声をかける。
「? 岩崎 渚君?何か思うことがあるんだね。」
生徒会長がいつものように軽いチャラけた声でアナウンスをする。
「はいはーい❤もうお開きだよー。みんな帰るよー!!」
「えええええええーーーーーーーっ!!!!」
校庭の内外から大ブーイング、それはそうだろう。
叶えた事は1つ、キャラメルポップコーンだけ……
それでも終了だからと生徒会役員に追い出されてしまえば皆は帰らざるをえない。
「大した命令じゃなかったなー。」
「今年はつまらなかったな。」
一同皆だらだらと帰っていった。
でも、2年生からは
「自分が当たるかと思ってドキドキした。」
と口々に言う生徒が多かった。
生徒会役員達は機材を手早く片づけ始め、校庭から人がどんどん去って行く。
「岩崎君、言いにくい個人的な命令なら生徒会室を使っていいよ。あそこは防音になっているから誰にも聞こえない。」
こんなモヤモヤした気持ちで知らないふりをするのは嫌だ。
「…………………有難うございます。生徒会室 使わせて貰います。そこで修斗と副会長に話が聞きたいです。」
2つの命令で二人の口から真実を聞かせてもらうぞ。
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