第五話 簡単なこと

1/1
前へ
/15ページ
次へ

第五話 簡単なこと

!! コイツ!! 裏で手を回したな!! きっと交代要員の三人を足止めをしているか、賄賂か何かを渡して来ないように仕向けているかのどちらかだろう。 「マンゴー1つ、ストロベリー二つ入りました。」 「はーい」 「はーい」 奥の二人は疲れていせいか弱々しい声でバラバラに返事をした。 俺だけが辛い目にあうのは まだ我慢が出来るけど、キッチンにいる二人を巻き添えにする事が許せない!! 「どうする?岩崎君のせいであの二人可哀想ね~~。」 「………」 客は次々と来るし、店は目が回るように忙しい。 涼しい顔をして、受け渡しカウンターに居座る田中七海を無視するが何も解決にならない。 どうしよう。 田中七海が呼ばなければ、交代要員は来ない。 俺達、三人は二時間以上休む暇もなく働き続けて疲れてきっている。 「早くー、返事はー?」 立ちっぱなしで足が痛い。 倍に膨れ上がっている気がするくらいだ。 お昼ご飯だって食べていないから腹ペコだし。 俺だけだったら我慢できる。 でも鈴木と佐藤を巻き添えするのは俺の我儘?エゴなのか? だって教えたら田中七海が修斗の彼女だって宣言するに決まっている。 そんなの絶対嫌だっ!! こんなヤツ絶対彼女なんて認めさせるもんかっっ!! でもでも鈴木と佐藤が……………くそっ!!! もう、本当に LIME ID を教えなくちゃいけないのかよ。 教えたら 修斗は俺の事 嫌いになるだろうな…… それが一番嫌だ……。 俺は答えることが出来ず、ただ田中七海を睨みつけるしかなかった。 「ナ~ギ!遅くなってごめん。飯食いに行こうぜ。」 「あ❤修斗君❤」 修斗の声でにらみ合った視線が外れ、田中七海の態度がガラリと変わる。 鈴木、佐藤………………ゴメン。 「……ゴメン修斗、交代要員が来ないんだ。」 「え? そこにいるじゃん。」 「え?私?ダメダメ 当番は二時間後なの。」 「俺達、三人二時間以上 立ちっぱなしの働き詰めなんだ。休憩にも行けない。………本当にゴメン。一人でご飯行って……」 「………………なんだ。そんなこと簡単じゃん。大丈夫、飯に行けるって!」 「????」 きょとんとしている俺達四人をしり目に 修斗はカウンターの中に入ってくると 自分のロッカーの所に行き鞄を取り出す。 中からルーズリーフを二枚取り出して受け付け横にあったマジックで何やら書き始めた。 「よし出来た!」 書きおわった紙には大きく太字で ≪売り切れ!!ごめんね!!≫ と書かれ、それを店のメニューの所に斜めに貼り、並んでいるお客さんに謝った。 「お客さん、ごめんね。一旦閉店するよ~。また後で来てくれると嬉しいな。」 と言ってお客さん達に帰ってもらうと、残りのもう一枚を作業台に張り付けた。 そこには ≪休憩に行きます。文句は時間になっても来ない交代要員に言ってくれ。お金は担任に預けて置く。≫ と書いてある。 「じゃあ、行こうぜ!! 」 やったあ!!と俺達三人は喜んでエプロンを外して椅子に掛けて店を出た。 そんな俺達とは対照的に田中七海は鬼の形相で怒って大声を上げる。 「今から書き入れ時なのに、勝手に休んじゃダメじゃない!!」 「なら、田中ひとりでやれば?みんな、休憩に行くぞー!! 」 修斗は俺達の背中を押して店をさっさと閉めてしまった。 店を閉めたその足で急いで俺達四人は職員室にいる担任の所に出向いた。 閉店理由を言ってコインケースを預けるとやっと自由の時間を手に入れた。 修斗と二人で昼飯を食べられると喜んだのもつかの間、待ちに待った出店周りなのに、立ちっぱなしだった足が痛くて、とてもサクサクと歩ける状態じゃない。 俺の歩みがいつもより遅いのに気が付いて修斗が心配してくれた。 「足が痛いのか?」 「うん、少しだけ……わあっ!! 」 言うか言わないかの間に修斗はひょいと俺をお姫様だっこする。 「足が痛いなら椅子のある所まで運んでやるよ。」 「ちょっと!!いいって、姫抱っこは、恥ずかしいって!! 」 「じゃ、恥ずかしくないように急いで連れて行くからしっかり捕まっていろよ!! 」 俺をぎゅっと深く抱きかかえると走り出した。 「わああああっ!! 廊下を走るなあぁぁぁぁ!! 」 俺の抗議は虚しく風のごとく修斗に運ばれてしまった。 ******************************************** 俺が連れられてきた場所はバスケ部の部室の前だった。 修斗は姫抱っこのまま、器用にドアを開けて俺を長椅子に座らせた。 「ここならいいだろう?適当に何か買ってくるから、そこで休んでろよ。」 「………うん、分かった。」 「すぐ戻るよ。」 そう言って出ていった。 く~~っ!! 本当なら修斗と仲良く歩きながら買い食いしていたところなのに~!! スマホで時間を確認すると、なんと三時間も立ちっぱなしだったことが分かった。 くそ、なんだよ。 関係ない人間も巻き込むなんて 必死なのは分かるけど女子の手口がどんどん陰湿になってきてるな。 でもその意地悪のお蔭で姫抱っこしてもらえて…修斗に思いっきり抱きつけちゃった。 きゃーーーーっ!! さっきのこと思い出すと、顔から火を噴くほど熱くなった。 「駄目だ、駄目だ。こんな顔してたら修斗に変な奴だと思われちゃう!顔を冷やさないと!」 ぱたぱた手で顔を扇いで、修斗が早く戻らないことを祈った。 待っている間、部外者はなかなか入れない部室が見れてとても新鮮だった。 ここで修斗達が着替えて練習にいくんだよな。 あ、修斗のロッカーここなんだ。 「………………おーそーいー!!遅すぎるよぉ。修斗早く返ってきて。」 はじめはキョロキョロ見回したりして楽しかったけど、そのうち何もすることが無くボーっといるだけでつまらなくなった。 いっそのこと修斗を追いかけてみようかとも思ったけど、入れ違いに戻ってきても困るしなぁ。 確かにさっき早く戻らないでくれと思ったけど、こんなに遅くなるなら お願いしなかった。と反省した。 結局、待つこと一時間やっと修斗が帰って来た。 修斗の両手には、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、ホットドッグ、綿あめ、ポップコーンなどが二つずつのっており、ヨーヨーは指に引っ掛けてあるのが三つ、頭にはお面が一つ被されている。 「どうしたの、それ?!なんでそんなに買い込んできたんだよ?」 「店の前を歩いたら貰った。」 「え?」 どう見ても二人でも食べきれる量じゃないよ。 「罰が当たるからな。全部食うぞ。」 「げっ!マジ?」 モテる男は歩くだけでこれだもんな。 俺とは大違いだと つくづく思った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加