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振り上げた拳の行き先は
風太君一味は、暫く家の前に立って様子を見ていました。
当然辺りは寝静まっていて、物音ひとつ聞こえません。
凍てつく風が風太君の足元から吹きすさび、あたりの静寂がさらに寒さを助長しているようでした。
玄関のポーチには、誰かが育てている朝顔の鉢や、美しいパンジーが飾ってあります。
横に視線を移すと、子供の砂場用のおもちゃや小さい補助輪付きの自転車、そしていつも上司が会社に乗ってくる白い車が、ここが自分の居場所だと言わんばかりに鎮座しています。
ここには、会社では見ることのない上司の「生活」がありました。
風太君は急に自分が情けなくなりました。全く理解出来なかった上司の話が、今になって理解出来そうな気がしてきました。
頑なのは自分の方で、甘えて、反省もせず、傲岸に振舞って居たのは自分の方だったのではないかと思えて反省しました。
「やっぱりいいや。帰ろう。俺が間違ってた」
そう妖怪に言い捨てて踵を返しました。
妖怪達はキョドキョドと風太君の背中と上司の家の窓を交互に見ながら小走りで風太君の後を追いました。
赤ん坊の妖怪は風太君の腕の中で寝息を立てています。
「こんなところに連れてきてごめんな」
風太君の声は、春の風に吹き消されてしまいました。
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