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お疲れモード
桜の散り始めの頃で、頰にちくちくと突き刺すような風が当たる日の夜の事でした。
深夜残業を終えた風太君が一人暮らしをしているアパートに帰り、コンビニで買ったお弁当を掻き込むようにして食べている時でした。
不思議な事に、遠くの方で波の音が聞こえてきたのです。
箸を止めて聞き入ってみましたが、やはり聞こえてきます。
当然風太君の家の周りに海はありません。
「俺もだいぶ疲れてるな」
思い返してみると、正月以来休みが取れていません。
疲れていないと言えば嘘になります。
今日のところは仕事疲れのせいにして風呂にも入らずに床に就きました。
しばらく夢と現実の狭間で意識がウロウロしているのを感じていると、遠くの方からまた波の音が聞こえてきます。
ザラザラザラ、ザラザラザラ
一定の間隔で寄せて返す波の音です。
先程と違い、音が段々と迫ってきて、まるで耳元に波打ち際があるように聞こえてきました。
それでも目を閉じていると、波と共に仕事での嫌な思い出が打ち寄せて来るように感じます。
とうとう寝ていられなくなり、ハッと目を開けた時でした。
部屋の隅に人の気配を感じました。
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