疲れと怪奇現象のはざまで

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疲れと怪奇現象のはざまで

すると、そこに居たのは、驚いた顔をした昨日の子供と同じ年頃の幼児でした。 枕を引っ張り取られた小さい手は、三色団子から一つつまみ取って作ったようにムチムチして可愛いです。 手持ち無沙汰になったのか、虚空を掴むような手の形をしたまま微動だにしません。 昨日の子供とは違い、この子は紅柄色の涎掛けを付けています。 辺りを見渡すと、クローゼットの前に昨日の妖怪も立っていました。 両手で大事そうに小豆の入った笊を持って、上目遣いでこちらを見ています。 「貴様、仲間を呼んだのか!」 鬼の形相で小豆洗いに向かって怒鳴ると、小豆洗いは目に涙を一杯溜めながらプルプルと震えました。 業腹を禁じ得ない風太君は、二人の額をピシャリ、ピシャリと叩いて布団を被って寝てしまいました。 二人とも涙がこぼれないように目を目いっぱいに開いています。 それからは枕を取られることもなくぐっすりと眠ることが出来ました。 次の日、風太君は仕事に行きましたが、睡眠不足も祟って相変わらず成果が上げられず、また上司にこってりと怒られてしまいました。 今日は上司に「成果が上がるまで帰って来るな」との命を受け、丑三つ時に作業を終えた風太君が社用車の中で仮眠を取ろうとしています。 朝からキリキリと胃が痛み、食べ物を受け付けません。 ふと昨日の子供の事を思い出して調べてみると、どうやら「枕返し」という妖怪ということが分かりました。 今日も眠りが妨げられるのではと思うと既に腹が立ってきました。 風太君は数時間後には辛い仕事に行かなければなりません。 せめて睡眠ぐらいはきちんと取っておきたいものだと思いました。 会社での嫌な出来事を頭の中でぐるぐると反芻し、やっとの事で深い眠りに落ちた時でした。
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