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4.答え合わせ
「……ってぇか、止めろよなぁ、九十九。何だよ『バケモノゴリラ』ァ? 『バケモノワニ』ィ? ドキッとするじゃねぇか」
隣の熊田が苦笑いする。鼻が尖り、赤い唇から黄色い犬歯が覗く。暑苦しいヤツめ。
「ちゃんと掠ってやっただろーが」
「いや、かなり心臓に悪かったぞ」
八雲まで熊田に同調する。彼の背後の影が蠢き、ワサワサとした多脚と、額に赤い光が6つ浮かぶ。
「それ言うなら、小林っ。もう少しオブラートに包めよな」
カチッ、コチッ……と愚痴が溢れる。
「そうよ、冷や汗かいたじゃにゃいの!」
ホワイトボードの記述を消している、峯湖の尻の辺りに2本の長い影が揺れる。
「いいでしょ、貴女も言ってくれたじゃないですか。ストライクを」
筋肉の盛り上がった腕を組み、大きな鷲鼻が現れ――デカい唇が歪む。いつ見てもヤツの面相は醜悪だ。
「君もさ……急にフラれると、困るんだよね。まだ任期途中なんだから」
ツルリとした額の汗を拭き、星澤の黒眼がアーモンド型に大きく吊り上がる。
「咄嗟に、何か言わなくちゃと思って。すみません」
充血した赤い瞳で非難元を見返す城島は、鋭い突起が左右に2本、髪を突き抜けて伸びる頭を軽く下げた。
「まぁ、仕様がないけどさ……」
星澤は灰色の長い指を伸ばして、素直に折れた城島の赤茶色のゴツい手と握手した。
「それにしても、キューさんは贔屓されてんなぁ。こういう微妙な危機に晒されねぇんだからな」
「それこそ、仕様がねぇよ。木村部長の娘に、手ぇ付けたんだろ?」
「ったく、節操ねぇな!」
「仲間に迎えるつもりもないんでしょう? 利用するだけ利用して捨てるんですかね」
「どうせ『永遠の美しさをあげる』とか、巧いこと言って騙したのよ!」
――カチッ、コチッ、チーン
「……九十九ぉ、まだ18時になってねぇぞ」
呆れた眼差しで、茶色い毛むくじゃらの大熊が見下ろす。
「すまん。最近、短針の調子が悪いんだよ」
俺は、錆び付いて固くなった竜頭を巻きながら、小さな歯車の外れた頭をカラカラ振った。
【了】
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