11人が本棚に入れています
本棚に追加
ミーティングルームには、既に5、6人が着席していた。
奥のホワイトボードの前が4席程空いているが、楕円形のテーブルはぐるりと見知った顔が囲んでいる。
「何だ、制作部のチーフ、全員参加かよ」
「らしいな」
入口近くの空席に、熊田と並んで腰掛ける。因みに、コイツとは同期。俺の3課はRPG専門だが、熊田の4課は育成ゲー専門だ。
「おい、小林。お前さぁ、バイト君使い過ぎじゃね?」
テーブルに身を乗り出して、向かいの若者に話しかけたのは、8課の八雲だ。こんなインドアの稼業には珍しく、浅黒い肌に加えて、髪も髭も毛深い。
「やだなぁ。格闘ゲーは、バグ出やすいって知ってんでしょ。これでも予算ギリギリですって」
小柄な小林は、一層身体を小さくして畏まるが、それでいてニタニタといやらしく薄ら笑いを浮かべている。ヤツは2課、主に通信ソフトで高収益を稼ぐ、我が社のドル箱部門を率いるだけに、若手ながら人を食う態度は健在だ。
「2課のせいで、バイトが次々に辞める、入れ代わり激し過ぎるって、人事から苦情出てんだよ。ちっとは考えてくれや」
「この業界、意外とブラックだって知らない若者が多いんですよねー」
他部門からの苦言なんぞ、馬耳東風。悪びれない小林に、八雲は小さく舌打ちした。
「バイトって言えば、キューさんには、困ってるのよねぇ」
6課の峯湖がつり目を更にキュッとつり上げた。彼女は、手元のミルクティーのペットボトルを一口飲むと、キューさんこと9課の久良さんの苦情を吐露する。
「可愛いコと見れば、上手いこと言って引き抜くんだから。いくら古参でも、止めてもらいたいわ」
「ああ……またか」
身に覚えのある者は、彼女だけではない。数人が溜め息を吐き、苦虫を噛み潰した。
かく言う俺もその1人。つい3ヶ月前だったか、ようやく仕事を覚えたばかりの美人のバイトちゃんが、キューさんの歯牙にかかって籠絡されちまった。
『9課に移らせてください』――血走った瞳で訴えてきた彼女を、引き止めることは出来なかった。ま、無理矢理止めても、こうなっちまっては使い物にならない。
「ちゃんとテリトリーは守ってもらわなくちゃ、やってらんないわよ」
峯湖は心底嫌そうに吐き捨て、もう一口ミルクティーを飲んだ。
最初のコメントを投稿しよう!