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2.社運を賭けたプロジェクト
「よう、お揃いだな」
沈黙が生まれたタイミングで、ガチャリと入口のドアが開く。紫紺のスーツに、ホストみたいな派手な赤いYシャツを着た木村部長が入って来た。齢50を越えた白髪6割のグレーヘアなのに、これが嫌味なほど似合っている。夜の銀座でモテモテらしく、世の中って分からない。
「キューさんが、まだですよ」
7課の星澤が、銀縁眼鏡を拭きながら、白けたように答える。返る言葉は分かっている――それでも言わずにはいられない。そんな半ば義務的な口調で。
「ああ、キューさんは大阪に出張中だ。この前販売した『ダークスカイ・リキャプチャー』の販促キャンペーンだ」
煩わしい会議の類は免除されている――これも古参の特権か。まぁ、それ以上にキューさんは制作部では優遇されている。周知のことなので、異を唱える者はいない。
木村部長はホワイトボードの前まで行くと、癖のある汚い字で『BAKE-MON-STAR』と書いた。
「えーと。かねてから話していた新プロジェクトだ。我が社の社運を賭けていると言っても、過言ではない」
手にしていた赤いファイルから、わざわざ「極秘」と書かれたA4の資料を左右に配った。
「これ、バケモノとモンスターの造語じゃなかったのか」
八雲が意外そうに呟く。
「そうだ。バケモノを退治しながら門を抜けて、星を増やしていく、って意味だな」
木村の説明は意味不明だ。俺は、手元の資料をちゃんと読む。
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