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第4話 試練への足踏み
東京から福岡までの道のりは長く、新幹線とバスを乗り換えしながらの旅行となった。
私はその日、このペンデュラム22回ではありえなかった、『祖父母の家への訪問』を果たせたのだ。それは紛れもない奇跡、異変であり、その心境は心が踊っている。
だが、わかっている。これからが肝心なのだと───そう、フルールには念を押されたのだから。
道中、フルールは私の前に姿を現さなかった。だから彼女の売り言葉にいちいち神経を逆撫でされることはなかったが、同時に重要なことも何一つ聞けずじまいであった。
いや、彼女はおそらく、これ以上のヒントを出すことはないのだろう。彼女はあくまでも自分で気づけと明言したのだから。
その言葉は真剣そのものだったのだ。きっと彼女の本心なのだろう。
そうこうして私は古賀駅に到着していた。そこからはおじいちゃんが車で送ってくれるとの手筈になっていた。
私は周囲を見渡すと、一台のワゴン車が目に入る。群青色のそれは、間違いなくおじいちゃんの車であった。
そこから出てきた彼に、私は手を振り挨拶する。
「久しぶり、おじいちゃん」
「おお、花音。また一段と大きゅうなったねぇ。暑かやろう、車にのりんしゃい」
おじいちゃんはドアを開け、私の荷物を押し込んだ。そうして私は後ろの席に座ると、まもなく車は出発する。
「花音は、昔っから変わらんねぇ。たしか小学生のときも、車は後ろに座るのが好いとったっけ」
「……うん。なんか、落ち着くから」
「はははっ。そうかそうか」
東京の喧騒とは対になる、古賀の空気。それは開け放った窓からはよく感じられた。
そんな辺り一面の緑を眺め、車は道路を進む。エンジン音はこの静寂の中では、ずいぶんと目立つほどだった。
そうしておよそ20分ほどかかり、私は彼らの家に到着した。久しい対面、私にとっては、まさにそうだった。
何一つ変わらないその家の外観に、私は安堵を胸に生む。やはりここは居心地がいい。どこか落ち着かせてくれるその匂いが、私は昔から好きだったのだ。
「お邪魔します」
荷物を手に、おじいちゃんと家に入る。すると玄関に吊るされていた風鈴がチリンチリンと音を立てた。夏の空気に相まって、それは耳にしてリラックスできる。
そして私の訪問に、向こうからおばあちゃんがやってきた。
「まあ、よう来たねぇ!元気にしとったか、花音」
「久しぶり、おばあちゃん。元気にしてたよ」
私は蝉達の合唱に蓋をするように、家のドアを閉める。そうして「お邪魔します」と、私は脱いだスニーカーを整えてから、家の中を歩いた。
木製の床板は軋まない。まだまだ健康のようだった。その変わらない一つ一つに、私はやはり嬉しくなった。
そうして中央の部屋に通されると、そこで私は見た。
そこから庭を眺めるように腰掛けていたのは、私の双子の弟───文雄だった。黒い髪は5年前と変わらない、サラサラとした綺麗なもので。その手には団扇が握られていた。
「……ふみ、お」
そうポツリと声をかける。すると彼はすぐに反応して、ばっとその顔を振り返らせた。
「……花音、か。いらっしゃい。久しぶりだね」
その顔は5年前とは変わって、大人びていた。無理もない。彼と別れたのは、私達がまだ小学6年生の頃だったのだから。そこから月日は経ち、気づけば私達は高校2年生になっていた。
互いに互い、顔を見合わせる。そして次には、彼の方から口を開いていた。
「なんか、美人になったね。化粧無しでそれなら、大したものじゃん」
「……可愛いって言ってくれた方が、嬉しいけど」
「……?そういうものなの?じゃあ、そういうことにしよう」
その声色も、顔立ちも、彼はやはり変わっていた。しかし変わらないのは、その性格くらいであった。私は思わず苦笑する。
───これが私と彼の、再会であった。
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