前編

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 口は死神を一呑みできる位の大きさ、体長は約2メートルの死神の7倍はあろうか。面構えは蜥蜴のようでもあり、コモドドラゴンのようでもあり、ティラノサウルスのようでもあり、ニシキヘビのようでもある。早い話があらゆる獰猛な爬虫類をミックスさせた感じだ。鼾をかいているから時折、鋭く大きな牙が隠見する。がっちりした強大な四つ足にも鋭く大きな爪が生えている。顔も体も尻尾も如何にも硬そうで岩のような鱗で覆われている。背中には飛膜が発達し、蝙蝠や鳥と違って脚とは無関係に独立した大きな翼が生えている。これで以て大空を自由に飛翔することが出来るのだ。  死神は噂には聞いていたが、想像以上に物凄い物だと思い、こんな途轍もなく怖ろしい怪物とは出来ることなら関わりたくないと思いながらも呼びかけた。 「おい!ドラゴン!」  死神は大声を出したつもりだったが、その声は鼾に掻き消され、ドラゴンは起きる気配がない。  はあ、端からこれだ・・・と死神はその外観に似つかわしくげっそりしたが、石ころを拾うと、妖術で大砲に変えてしまい、点火してドカン!と轟音を立て砲丸を撃った。  すると、ドラゴンは死神が吹っ飛ぶほどの吐息を吐きながらウォー!と凄まじい唸り声を上げて目を覚ました。 「お、おみゃあさんは死神でにゃあかなも!よういりゃあしたな、って言うか、おそがい顔して何でこんなとこにおりゃあすの?」  な、何だ、こいつ、名古屋弁で話しよるわいと意外の感に打たれた死神は、兎にも角にも用件を言おうと持ち掛けた。 「実はお前と取引しに来たんじゃ。」 「取引?ほほお、このドラゴン様と死神が取引とはシュールだがね。そりゃあ面白いがや。遠慮のう言ってみてちょ。」 「あの、お前、魔女から聞いたんじゃが、牛とか豚とか宝石とか黄金とか、そういうのが好きなんじゃろ。」 「それと、かしわもどえりゃあ好きだがね!」 「かしわ?」 「鶏の肉だがね。」 「ああ、鶏か・・・」と死神は呟き、こいつ、名古屋弁で話しとるところからして、そうかと気づき、「と言うと、ナゴヤコーチンか?」 「ほうだがね。おいしいでしょう。」 「まあ、確かに美味いが、その美味いもんとか光もんとか、どれだけお前にやれば、人間100人を魔女のいるドロロン城まで運んでくれるかな?」 「魔女に頼まれりゃあした?」 「ああ」 「そんなのおみゃあさんの妖術を使やあ、わけにゃあことじゃにゃあのかなも?」 「それがな、わしは万能に見えて万能ではなくて運搬となると、この白骨馬に頼るしかないのじゃ。」 「ほうかね、おみゃあさんにしてはとろくさいことだがや。ほんだでこのドラゴン様の所へお願いにござったとこういうわけかなも?」 「まあ、そうじゃ。」 「う~ん、なるほど、ほんで、おみゃあさんは魔女にどんな風に頼まれりゃあした?」 「じゃからわしは急いでおって今から3時間以内に人間100人をドロロン城へ送らなければならんのじゃ。」 「はあ、なるほど、ほんでこのドラゴン様と取引する気になったのかなも?」 「ああ、魔女からお前が空輸できると聞いたものじゃから。」 「ほうか、ほうすると、ちゃっとしなかんで、あんまりよーけ欲張って要求したらあかんねえ。」 「そうじゃ。お手柔らかに頼む。」 「う~ん、ほんじゃあ、牛と豚は飽きるほど食っとるし、光もんもよーけ貯め込んだでナゴヤコーチンを20羽とダイヤモンド10カラットとインゴット10本でええがね。」 「ほう、そうか、それだけなら30分もかからんから、えーと、そうじゃ、ここからドロロン城まではどれくらいで行ける?」 「たいぎゃあ15分くらいかなも。」 「そうか、そんじゃあ、余裕で間に合うな。」 「余裕かなも。ほしたらさっき言った倍、頼まれてちょーせんか?」 「はぁ?倍やと!」 「ふふふ、おみゃあさん、正直だであかんのだわ。ちいとはかんこーしてこっすくちょーらかさなあかんがね(少しは工夫して狡く騙くらかさないと駄目だよ)。」
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