鷹と雛(六)[過去]

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鷹と雛(六)[過去]

 梧の消滅から数年後、とある上位のあやかしが消えたという噂が立った。梧ほどではなかったが、随分と長く生きており、人からも川の主として知られる魚のあやかしだった。  自然消滅ではなく、他のあやかしの手によって命の()を消されたらしい。しかもそれは、幼い子どもの姿をした「蛇」のあやかしの仕業だという。  菖蒲は、その蛇こそが梧の子なのではないかと考えた。数年で人形(ひとがた)を取れるようになるというのはめずらしいが、梧の子ならばそれくらいのことはやってのけるだろう。  菖蒲は噂の糸をたどり、情報の精度を高めていった。件の魚に手を下したのは「白髪」に「赤目」の子どもだったという話に行き着いたとき、やはり梧の子だと確信した。上位のあやかしの子は、長くは生きられないことが多い。寿命が短いというだけでなく、他のあやかしに狙われやすいためだ。人形を取れるまでに成長したというだけでも、そのあやかしの強さが窺える。  梧の、子ども。ただそれだけで、興味が湧いた。見てみたいと思った。  蛇の子の居場所を掴んだ菖蒲は、ひとまずその顔を見に行くことにした。梧は、水を操るあやかしで、よく水辺に根城を構えた。やはりその子も同じ性質を受け継いだのだろう。蛇の住みかと噂される桜の大木は川のすぐ側にあり、絶え間なく水の流れる音が聞こえていた。  今はいないようだが、残り香から察するに、ここが蛇の根城で間違いない。  しばし待つか、日を改めるか。何か用があって探していたわけではないのだから、どちらでもよいといえばどちらでもよい。ただ、何度もここを訪れるのは億劫だ。どうしたものかと考えているうちに、どこからか──悲鳴のようなものが聞こえた。
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