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「あの二人は、怖くはなかったか?」
茅萱と柊が帰った後で、菖蒲は雛に問いかけた。女が苦手だと言っていたのでその点においては問題ないが、他にも雛の苦手な要素がないとも言い切れない。
「はい」
「そうか、ならいい」
この先何か問題が出てくるようなら、中止すればいいだけのこと。何事もやってみなければ分からない。
「そうだ、雛」
「はい」
「今夜から儂の部屋で寝ろ」
「え……?」
「またうなされるかもしれないのを、いちいち確認しに行くのも面倒だ。落ち着くまで、しばらく夜はこちらで過ごせ」
──もし、雛ちゃんが元の暮らしに戻ること を望むのなら。
茅萱の言葉が頭をよぎる。菖蒲はこの手間のかかる小鳥を手放すつもりはなかったし、出ていきたいなどと本人に思わせる気もなかった。この先、優に数十年は費やせる暇潰しだ。長く楽しむために、まずはしっかりと手なずける必要がある。
「しょうぶさんも、眠るの」
「寝るときもあるし、寝ないときもある。あやかしにとって睡眠は必須ではないからな」
「側に、いてくれるの?」
「ああ」
雛は、笑った。ただ、夜誰かが側にいてくれるというだけで、こんなふうに笑えるものなのだろうかと。不思議に思えるほどの、晴れやかな、明るい笑顔だった。
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