鷹と雛(一)[現在]

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「まだ、学校とやらには通っているのか?」 「はい」 「子も産ませず、ただ側に置いて。『外』に出ることさえ許すとは。あの男にしては殊勝なことだな」  皮肉と本心、半々で呟くと、芹が笑った。 「……槐には、感謝しています」 「意味のない契約で、無理やり妻にされてもか?」  男の身でありながら嫁がされ、関係を持つに至ったことが、彼の本意であるはずがない。純粋の塊のようなこの少年がそのことをどう捉えているのか、一度聞いてみたいと思っていた。  今は、と芹は薄い唇を開いた。 「今はあやかしの害は少ないと聞きますが、契約によって守られてきた過去がある以上、意味はあったんだと思います。それに始まりがどうであれ、僕は今の生活に満足しています」  満足と言い切るその瞳には、強い光が宿っている。そうだった。この少年は無垢なだけでなく、環境に順応する強かさも持ち合わせているのだった。人に甲斐甲斐しく世話されて咲く類いの花ではない。野山でひとり、雨風を受けて逞しく咲く花だ。 「そうか。ならいいが、別れたくなったらいつでも言えよ。離縁の手伝いくらいはしてやろう」  別れません、と少年は花が綻ぶように笑った。
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