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「ふ、あ……っ?」
脇の下に手を入れて、持ち上げてみる。やはり、恐ろしく軽い。
「この細さでは、食うにも今ひとつだな。まず太らせてみるか」
正面から抱き上げて目線を合わせると、長い睫毛がぱちぱちと上下した。
「……あなたが食べるの?」
「さあな。どうせ捨て置かれる命なら、拾ってみるのも一興だ。食うかどうかは後々決めればいい」
「拾うの? わたしを?」
「ああ」
菖蒲は一旦子どもを地面に下ろし、近くの木から葉を一枚むしり取ると、鳥の形になるようにちぎった。息を吹きかければ、小さな緑の鳥が命を持つ。
「とりさん」
幼い声に、先程までのような暗さはなかった。驚き、好奇心、高揚。こんな声も出せるのだ。
「ああ。連絡用だ」
急に人を連れ帰ったのでは、屋敷の小鳥たちがざわつく。先に知らせておいた方が面倒が少ない。
「人間の子を連れ帰ると、『燕』に伝えてくれ。湯の用意もしておくようにと」
『燕』は小鳥たちの中でいちばんの年長者であり、まとめ役だ。彼女に任せておけば、他の鳥たちもあまり騒がずに済むだろう。
「行け」
木の葉の小鳥を空に放つ。小さな羽を羽ばたかせ、小鳥は菖蒲の屋敷へと飛び立っていった。
「さて、行くか」
再度、菖蒲は人の子と向き合った。一度拾うと決めてしまうと、厄介さよりも愉快さが勝る。まさか己が人を拾うことになるとは、ほんの数分前には思いもよらなかった。
「あの……」
「異論は受け付けない。もう、連れて帰ると決めたのでな」
「そう、じゃなくて。あの、お名前が……知りたい」
「──菖蒲だ」
「しょうぶ、さん」
「そうだ。おまえの名は?」
「……」
また、虚ろな瞳に戻る。さすがに名前がないということはないだろうから、気に入るものではなかったか、何か嫌な記憶でもあるのだろう。
「言いたくないならいい。儂が付けてやる」
「え?」
「そうだな……。『雛』でどうだ」
「ひな」
「嫌か?」
「……ううん、ひな、いいお名前」
目を細め、やわらかく笑う。子どもらしい、邪気のない笑顔だ。ほんのわずかな時間で、落ち込み、喜び、笑い。人というのは、かくも忙しい。
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