鷹と雛(二)[過去]

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鷹と雛(二)[過去]

 菖蒲と槐との縁は、遡ればその父親へと行き着く。千年もの時を生きたあやかしで、名を(あおぎり)といった。  何がきっかけだったのか、はっきりとは思い出せない。菖蒲は彼に気に入られ、時折行動を共にした。もう何百年も前の話だ。  梧は、不思議な男だった。力を持ったあやかしのほとんどが下位のあやかしを従えているのに対し、彼はいつもひとりだった。支配することもされることもなく、飄々と笑っていた。  人もあやかしも、所詮は命の()が見せる幻に過ぎないのだと彼は言った。どれほど輝いていようとも、いつかは消える。故に、美しいのだと。  博愛主義かとからかうと、梧は淡々と否定した。 「美しいと思うことと、それを愛するかどうかはまた別の話だからな」  あらゆるものに美しさを見い出すということは、「特別」がないということだ。全て同じに見えるのなら、愛せないのも無理はない。 「それで、ひとりなのか」  上位のあやかしの中でも突出した力を持つ梧の、伴侶の座を望む輩が多くいることは知っていた。彼の見た目の端整さが、それに拍車をかけていることも。しかし彼は誰も選ぶことなく、ひとりで永い時を生きていた。 「誰とも(つが)うつもりはないのか?」  菖蒲の問いかけに、梧は首を軽く横に振った。 「そうと決めているわけではない。まあ、これまで欲しいと思うことがなかったのは事実だ」  そこで言葉を区切り、彼は艶っぽく笑った。 「欲しいと思う者が現れれば、(さら)ってでも俺のものにするんだがな」  梧がそれを実行に移したことを菖蒲が知ったのは、彼が消滅する少し前のことだった。
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