寒さの分からない男

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寒さの分からない男

 底冷えのアパートでセックスは良くない。  行為が終わったらとにかく寒い。  熱を帯びるほど盛り上がってもなく終わったから尚更。  冷える汗もかいてないっての。 「服着ていい?」  と、わざわざ聞かなきゃ良かった。 「ダメ」 「寒いんだけど」 「ダメ」  彼は楽しいつもりで言ってるかも知れないけど、真冬に汚部屋手前、来るたびに何となくベタベタした床に直に敷いた布団は寒い。  彼は布団を自分の方に引っ張ってからかう様な態度に興醒めする。私は不貞腐れて、わざと布団からはみ出し、冷たい床に裸の身体を投げた。ガチで寒い。直ぐに身体がぶるぶるして鳥肌が立つ。彼はそれが良かったみたいだ。 「うそうそ」  と、布団に入れてくれたが、私の身体を温める様なことはしてくれない。面白がられても、扱いの悪い事に変わりはなく……とても愛があるとは思えない。  女は男より体温が高い。それって抱く方からしたら温かいかも知れないけど、こっちからしたら熱を奪われるだけ。  それでも、自分よりも身体が大きくて包んでくれるならまだしも……そんなに背の高くない彼が裸で横に並んだぐらいで、温かいわけない。心も体も凍える。  食事も下拵えしたものを調理して、出掛けないデートを繰り返し、彼が私に何かをしてくれることはない。  この間は、あまりにも一方的にお金を使っている私の話を彼にぶつけた。 「お金がないと思って食事を用意してるけど、私ばかりが払ってる形っておかしくない?せめて、材料費を少しはと思わないの?」  社会人一年目の私は、まだ夢追ってバイト暮らしの彼に文句を言った。流石に、これはヒモ真っしぐらだ。 「なんだよ、金かよ。金ぐらいなんだ!」  彼は、財布から一万円札を一枚、床に投げ捨てた。俳優になりたい夢は、こいつには無理だなって下衆っぷりだ。セリフもダサい。 「要らないわよ!そんなの!」  と、言い返したら。 「誰がやるか、バーカ」  と、彼は床の一万円札を拾って財布にしまった。つまらない三文芝居を見させられて、私はひいた。  彼とのアパートでの時間は総てが寒過ぎて、私は早く清算しようと心に決めた。
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